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観戦記『イタリア男子/この深き愛に包まれて』

 現地9月30日に閉幕した『男子世界バレー2018』。“自国開催での優勝”を目指した、開催国イタリア・アッズーリ(※)に注がれた愛の形とは。現地取材班の観戦記

※アッズーリ:イタリア代表の呼称

 

■観戦記『イタリア男子/この深き愛に包まれて』

9月9日、屋外競技施設『フォロ・イタリコ』で行われた開幕戦

 

 9月9日、イタリアはローマ。男子世界バレー2018開幕戦は、インドア競技を屋外競技施設で実施するという、それだけでも“特別”なものだった。

 

 足を運んだファンは試合前から、明らかにその興奮を隠せずにいた。その熱も、イタリア男子がコートに姿を現した瞬間からさらに上昇していく。試合前のアップから、入場時、国歌斉唱、試合が始まり、1点が決まり、そして、勝利に近づくごとに。限界を知らぬボルテージが、会場を支配した。

 

 それは、世界一決定戦に臨む代表チームへの、人々の思いを純粋に表していた。

 

 『なぜなら、イタリアだから。私たちの、世界バレーだから!』(本誌連載コラム『World Today』<文/ジャン・ルカ・パシーニ>より)

 

 イタリア男子を率いるジャンロレンツォ・ブレンジーニ監督がそう声を上げた、壮大な夢を懸けた“特別”な大会はここに幕を開けた。

 

イタリアが誇るスーパースター、イバン・ザイツェフ

 

チームとファンとの触れ合い

 

 2016年リオデジャネイロオリンピックで銀メダルを獲得したイタリア男子は、フランスやアメリカに匹敵するほどの、スター選手ぞろい。イバン・ザイツェフ、オスマニー・ユアントレーナ、シモーネ・ジャネッリ…、アイドル顔負けの甘いマスクを持ち合わせる彼らに、ファンはハートを鷲掴みにされている。黄色い声援が飛び交い、それは若い女性だけではない。子供から老人まで、男女問わず、代表選手に憧れ、張り裂けんばかりのエールを送っているのだ。

 

 中でも、ザイツェフは、現在のイタリアの顔ともいえる存在で、国内のメンズ雑誌の表紙を飾り、本屋には自伝が並んでいる。ミラノの2次ラウンドでは、試合前のアップでスクリーンに観客席にいるファンの姿が映し出された。一人の若い女性は、『SPOSAMI(=私と結婚して!!)』と書いたハリセンを掲げた。続いて、その映像を見て、照れ笑い(苦笑い?)を浮かべるザイツェフが映し出され、彼が親指を立ててサムアップをすると、もう会場は興奮のるつぼだ。

 

 試合が終われば、ザイツェフはインタビューに応え、控え室へと姿を消す際には着ていたユニフィームを脱ぎ、スタンドに投げ込む大サービス。どれだけハートを射抜けば、この男は済むのだろう。

 

 ただ、こうしたファンとイタリア男子が受け答えをする姿はもはや日常風景だった。握手、サイン、スマートフォンでの自撮り、喜んで!! スタンドから最前列に駆け寄ってくる観客だろうと、ボランティアの子供たちだろうと、時間を尽くす。疲れた表情は確かに見せているのだが、それでもできる限りは応える。

 

 自国開催ということもあるだろうが、選手は勝利はもちろん、こうした触れ合いで感謝の気持ちを還元していた。

 

 子どもたちは小さいころから、スター選手たちにこれほどされたら、それはもう好きになってしまうだろう。シンプルなことだ。

 

試合後、セルフィーに応えるジャネッリ

 

最後は奇跡を信じて、イタリア男子はポーランドとの一戦へ

 

名実ともに世界トップレベル。それでも…

 

 その応援団に囲まれてプレーする、選手たちの表情は幸せそうだった。ミラノで先発出場も果たしたベテラン、ガブリエレ・マルオッティは感謝の気持ちを言葉にした。

 

 「イタリアでは一般人でも、バレーボールを楽しんでいるんだ。ほんとうにアメージング。だから、ベストを尽くすこと、それが僕たちにできることなんだ」

 

 また、試合後にコートから選手たちがあらかた引き上げても、最後の最後までファンの一人一人と触れ合っていたのは、リベロのサルバトーレ・ロッシーニだった。

 

 「チケットは完売だよ。びっくりさ。僕たちのプレーを、大勢の方が見にきてくれる。それはなんて幸せなことなんだろうね…!」

 

 ミラノではロシアに敗れたものの、いよいよファイナル6(3次ラウンド)から決勝まで行われる最終決戦の地、トリノへ。だが、そこで待っていたのは、辛い悲しみだった。

 

 3チーム1組で争われるファイナル6初戦のセルビアに完敗を喫し、続くポーランド戦で1セットを奪われたことで、夢は敗れた。

 

 ここぞの場面で決めるザイツェフのサービスエースは強烈だった。ユアントレーナのスパイクは力強く、フィリッポ・ランザのそれはハンマーで叩きつけるかのよう。セッターのジャネッリの、ときに見せるツーアタックは切れ味抜群。ミドルブロッカーのダニエレ・マッツォーネやシモーネ・アンザーニは前衛で壁となり、速攻も決めた。リベロのマッシモ・コラーチは体を張ったレシーブで、チームをもり立てた。

 

 レギュラーだけでない。マルオッティはいぶし銀のプレーを見せ、リリーフサーバーとして投入されたミケレ・バラノビッチはそのサーブで相手を揺さぶった。巨人のごときガブリエレ・ネッリは、そのパワーを見せつけた。

 

 強さはあった。けれども、それより上がいた。だから、彼らは勝てなかった。

 

ポーランド戦の第1セット、アンザーニ(コート奥)のクイックがブロックされた瞬間、戦いは終幕した

 

ここはイタリア。無限の愛が注がれる

 

 世界一のタイトルという、最高の形でアッズーリたちはファンの期待に応えることができなかった。ポーランド戦の第1セットで現実を突きつけられた以降は、観客たちの声もやはり、どこか悲しさが混じっていた。イタリアはフルメンバーで戦い続け、フルセットで勝利はしたが。

 

 試合が終わり、ザイツェフがマイクを手に感謝の気持ちを述べて、ようやく熱気を取り戻した。ただ、それは、この大会での最後の、代表チームとファンとが思いを共有する時間だった。

 

 悲しいエンディングだった。それでも、代表チームを愛してやまないファンたちの心は常にあったのだろう、そう思えた場面がある。

 

 9月28日。最後のポーランド戦、きわめて厳しい状況に置かれていることは試合前から明らかだった。その国歌斉唱で、選手たちは声を上げ、スタンドの観客たちも大声を出す。

 

 その途中で、国歌『マメーリの賛歌』のBGMが途切れた。

 

 それでも誰一人歌うことをやめず、そこからは会場中が手拍子を鳴らし、選手もファンも、全員が、最後まで歌い上げた。

 

 『これが愛するイタリアだから。オレたちワタシたちの、アッズーリだから!』

 

 きっと、そんな愛とともにつづられた、3週間に及ぶ戦いだったのだ。(文・坂口功将<編集部>)

 

国歌斉唱の際、スタンドはイタリアカラーの照明で彩られた

 

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