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“熱男”宣言。井手智は金メダルを狙う

 2019年度のバレーボール男子日本代表にとってシーズン最初の国際大会『FIVBネーションズリーグ2019』が現地31日から幕を開ける。チームが始動するにあたり、溢れんばかりの思いを表現した選手の一人が、リベロの井手智(東レアローズ)だ。

■“熱男”宣言。井手智は金メダルを狙う

井手 智(いで・さとし/身長174センチ/リベロ/東亜大→東レアローズ)

発表記者会見で絶叫パフォーマンスを披露

 

 5月10日(金)、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京)で行われた2019年度男子日本代表の発表記者会見。詰め掛けた100人ちかくの報道陣を前に、登壇した代表の登録メンバーたちが一人ずつ、マイクを手に意気込みを語っていく。

 

 緊張感も漂う中、井手智のそれは異質に映った。

 

 「リーダーシップを発揮して、前を向いてプレーしていきます。そして、“バレーボール界の熱い男といえば、井手”と思われるように頑張ります。アツオ-ッ!!」

 

 こぶしを握りしめて、そう声を張り上げる。周りの選手たちは笑みを浮かべ、報道陣はざわついた。プロ野球選手の松田宣浩(ソフトバンクホークス)でお馴染みの絶叫パフォーマンスをこの場所で、繰り出した理由を会見後、井手はこのように話した。

 

 「やろうと思ったのは昨日あたりです。こういった記者会見での、緊張にも似たムードがたまに試合中に出てしまうんです。ミスが出たら、誰も話さなくなり、シーンと静まるような。それを、ぶち壊したいと思ったんです」

 

 事前のメディアトレーニングでは、『メディアにコントロールされるのではなく、自分がメディアをコントロールする』という教えを受け、それを実行に移したのだという。また、直前にはチラリと、ベテラン福澤達哉(パナソニックパンサーズ)の方に目をやり、最終確認をした。

 

 「いざやると、あんまりウケていなかったので、やばいな、と思いましたね(笑)」と振り返ったが、そのパフォーマンスはまさに“井手智のスタイル”に違いなかった。

ベストリベロ賞を受賞した2017年のグラチャン

チームを鼓舞し、必要とされる選手になりたい

 

 2014年に日本代表に初登録され、2017年のワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)ではベストリベロ賞に輝いた。ディグにおいてもっとも高い数字を残した結果でもあり、井手にとっては「世界の舞台でも通用する」という自信を得る機会になった。ただ、その結果を踏まえても、彼の中には変わらない思いが。グラチャンを終えて半年後、2018年度の代表シーズンが始まるにあたり、彼はこう語っている。

 

 「僕よりも技術的に上手な選手はたくさんいると思うんです。それに対して、僕はメンタルの面、気持ちをアピールしたい。チームが負けていたり、劣勢の場面ではやはり雰囲気が悪くなってしまうことは絶対にある。そうした時にこそ、チームを鼓舞できるような選手になりたい。もし技術がダメだったとしても、必要な選手だ、と言われたいです」

 

 決してファイティングポーズを崩さず、チームのムードを引き上げる。井手のその姿が、見る人の心をひきつける。

 

 「どんな状況でも前を向いている選手やチームは、見ている人も応援したくなるはず。その中で僕は、周りから応援されるような試合をやっていきたいなと思うんです」

 

 そんな熱いハートが、“熱男”宣言の根っこにはある。

昨年は世界選手権を戦った
幼少期に抱いた日本代表への憧れ。今の夢は

 

 井手が日本代表での活動において、抱く夢。それは、世界大会のメダル、それもいちばん輝く、金色のメダルだ。

 

 そもそも日本代表を知ったのは、小学生のころ。福岡で開催されたワールドカップを会場で観戦したことをきっかけに、智少年は日の丸を目標に掲げた。大学時代には日本代表のアンダーエイジカテゴリーに選出され、世界大会を経験。そうして、夢のステージにたどりついたことで、目標を上書きした。

 

 「代表の選ばれること、そして、大会に出場すること。それはもちろん大事だと思うのですが、それだけではダメだと僕は思っていて。そこでメダルを取りにいきたい。周りからは、何を言っているんだ、という声のほうが大きいかもしれないですけど、『オリンピックで金メダルを取りたい』が僕の夢です」

 

 以前、バレーボールをする上での原動力をテーマに話を振ってみると、井出が出した答えは“負けず嫌いなところ”だった。

 

「自分自身、レベルが足りなくて、まだまだと言われてもしかたがない。メダルを取りたいと言っても、実際はアンチの意見のほうが多いと思う。けれど、それが僕の原動力になります。いやいや、と。

 

 もちろん応援してくださる方の声もパワーになります。反対に批判の声や、負けず嫌いなところが原動力になっている部分はあると思います」

2019年は「常にコートに立ってプレーしたい」と意気込んだ
冷ややかな視線や声を浴びようとも…、覆すという意思

 

 昨年の世界選手権では第1次ラウンド敗退に終わった。今年のワールドカップでは『ベスト8以上』の成績を目標に掲げているが、世間の反応を身に染みて感じているのは選手たち本人。それは井手自身も同様だ。

 

 「去年の世界選手権を見た人からすれば、ベスト8も厳しいのではないか、と思われるのはあたりまえ。ですが、それを覆していくのは、僕ら。監督でもなければ、コートに立つ選手たちですから」

 

 今年のキックオフミーティングでは、ある選手の口から「ベスト8を目標にするよりも、もっともっと上を目指そう」という意見も出たという。誰が発言したかについて、井手は明言を避けたが、その言葉を聞き、「すごくいいことだと感じた」という。

 

 記者会見当日、取材時間もリミットいっぱいになり、最後、“熱男”に聞いてみた。

 

- 金メダルを取る、その思いは変わりませんか?

 

「誰かがそこを狙わないと、始まらないと思うんです。いつ狙うの? いつ取るの?、ってね。その意識で戦わないといけないと思っているので、それが“最高”であり、“最低”の水準だと思います」

 

 今こそ自分が、メダルをつかんでみせる。2019年の、日本代表・井手智の戦いが始まった。

(編集部/坂口功将)

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