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野瀬将平インタビュー【前編】イスラエルで求められる自己管理能力

 野瀬将平は『考えるバレーボール選手』だ。プロ選手として活動しながら、例えば2019年には九州北部豪雨復興支援のため、クラウドファンディングを自ら行ってお金を集め、地元朝倉市出身のバレーボール選手に声をかけて、バレー教室を開催した。また昨シーズンのVリーグ開幕前には「#Vリーグはバレーだよ」のハッシュタグを各チームの選手と一緒に企画し、選手自らSNSでのプロモーションで盛り上げた。彼はバレーボールや選手の価値を高めるため、競技を楽しんでもらうために考えて行動していると感じられることが多い。

 

 そんな野瀬選手は今シーズン、自身初めてとなる海外のチームに移籍した。FC東京からイスラエルのハポエル・クファルサバへ。バレー選手として常に考えて行動する選手が、海外での経験をどのように感じているのか、話をうかがった。

 

今季イスラエルリーグで活躍する野瀬選手(写真:本人提供)

 

水が止まり、修理もできない。それも海外の醍醐味

 

――イスラエルでの生活はいかがですか?

 

 住んでいるのは結構古いアパートで、あまりきれいじゃないです。そこはあまり気にならないんですけど、年が明けてシャワーの温水が出なくなったんです。12月でも昼間は23、4度あったので温水がなくてもよかったのですが、夜は普通に寒いので、「あーー!」って言いながら冷水を浴びていました。

 

 チームにお願いして修理してもらったのですが、今度は水自体が止まってしまって。金曜日の昼に水が止まって、また修理をお願いしたら、チームから「今、業者に連絡したから日曜日に来る」って言われました。なぜすぐ来ないのかなと思ったら、宗教上の理由でした。イスラエルはユダヤ教の人が多いのですが、金曜日の午後から土曜日の日中まで働きません。絶対に休むと決まっていて、家事もほとんどしない。だから、修理業者も休み。「え!? 1日半、水なし?」って驚きました。(編注:ユダヤ教では金曜の日没から土曜の日没までの間、安息日として一切の労働が禁止されている)

 

――海外ならではのたくましさが必要になりますね

 

 僕はたくましさというより、あきらめる能力だと思っています。ここは日本じゃない、という前提で過ごしてればいいかなって。これも海外に来た醍醐味か、くらいに思っておけば、だいぶ受け入れられます。

 

――食事面はどうですか?

 

 僕は料理ができたので、食事は自分で作っています。パスタなどがメインになりますけど。でも冷蔵庫が機能していないことには困っています。こっちは暑くて11月頃まで気温は30度くらいあります。冷蔵庫が冷えないので、暑いと1〜2日で食べ物が腐っちゃうんです。チーズとかもすぐカビ生えるし。なので、パンや鶏肉を冷凍庫に入れています。それでも凍らないのですが。でも食事自体は問題なくて、ベッドもちゃんとしていて、寝られるし、健康的にバレーボールができているので、こっちに来た目的は果たせています。

 

ルームメートの分も作るなど積極的に料理している(写真:本人提供

 

 

――家には1人ですか?

 

 チームメート2人と僕の計3人で住んでいます。ポーランド人のセッターともう1人はイスラエル人です。彼は出身地からチームの拠点であるクファルサバが遠いので、一緒にアパートに住んでいます。でも僕ら外国人はイスラエル人がいないと生活できないです。レストランのメニューや道路の標識などが全部ヘブライ語で書かれていることもあるので、食べ物をオーダーしたいとき、車を運転するときなど、外国人にとっては厳しいです。会話に関しては、イスラエルの人は結構英語を話せるので、コミュニケーションはとれていますね。

 

マスクをしていないと罰金

 

――イスラエルのコロナ禍の状況は?

 

 イスラエルは人口比の感染率が世界最高水準です。僕がイスラエルに来る直前、チームの人は「大丈夫、落ち着いてきた」と言っていたんです。飛行機も再開したし、じゃあ大丈夫かなと思って行ったら、その時の国民の感染比率が世界最高水準と言われたアメリカ、フランスに並ぶほど増えていました。イスラエルの大きさは四国くらいで日本より狭いですが、1日に7,500人くらい感染していて新型コロナウイルス自体はめちゃくちゃ流行っています。

 

――対策をしていますか?

 

 自分でできる手洗いやマスク等の対策はしています。移動は基本的に車なので、あまり他人と接触しません。家から車で体育館まで行きます。外に出るときはマスクを着けていないと罰金なんですよ。警察に15,000円くらい払うことになります。ただ、僕自身は対策していますけど、チームメートは誰もやらないんですよね。

 

――感染予防の意識に差があるんですね

 

 ハグもしますし、体育館に消毒用アルコールなんて置いてないですし。僕は自分で持ってきたもので消毒しています。練習始まりや終わり、飲み物を飲むときとか。でもこっちの人はだいぶ適当です。チームでも2回くらい感染者がでました。判明したのが練習前だったんですけど、その日は普通に練習しちゃうんです。日本だったら打ち切りになるじゃないですか。さらに、次の日PCR検査を受けて陰性だった人は練習します。日本みたいに厳しくしてないし、捉え方がまったく違います。これが悪いと言いたいのではなく、それが普通なんです。自分の意思でイスラエルに来ているので僕が適応しないとダメなんです。

 

 

求められる自己管理能力

 

――チームやリーグについて聞かせてください

 

 チームは「ハポエル・クファルサバ」といいます。今村駿さん(現トヨタ車体コーチ)がこのクラブにいたんですよ。あと女子でJTにいた中村亜友美さんや上尾メディックスにいた南早希さん。3人がプレーしていたので、日本人に対しての評価がすごくいいんです。オーナーが「日本人選手がいい」と言っていて。だから今回オファーをもらえたのだと思います。

 

――チームに外国籍の選手は何人いるのですか?

 

 今年は僕を入れて2人です。リーグの外国籍選手の制限は3人までです。首都のテルアビブのチームにはアメリカ人選手が3人います。うち1人はイスラエルのパスポートを持っており、そうなるとイスラエル人としてカウントされます。そのチームはさらにキューバ人が1人いるので、外国人は実質4人です。

 

――リーグ戦での状況はいかがですか?

 

 今のところ全勝で1位です(取材日は2021年1月21日)。上位3チームが同じレベルです。4、5位のチームには外国籍選手の調子がいいと1セット取られますが、普通にやれば3―0で勝てる印象です。それより下には絶対負けないですね。何が起きても負けないです。

 

 

――イスラエルリーグでは年間何試合あるのですか?

 

 詳しくは僕もまだ知らないところがありますが、チームが10チームくらいあるんですよ。あ、僕も結構こっちの適当さに慣れてきて、適当になってます。すみません(笑) あ、9チームです。ホームアンドアウェーなので、レギュラーシーズンは16試合あって、そこからプレーオフが何試合かあります。今季はコロナ禍でイレギュラーだと思うんですけど。

 

――成績などを見ようと思ってもリーグの情報になかなかたどり着けないのですが…

 

 基本的にはヘブライ語で探さないと出てこないので、海外から見た日本と同じですね。イスラエル人のチームメートにリーグのウェブサイトを教えてもらいました。(http://iva.org.il/StatsNew.asp)内容はすべてヘブライ語ですが、3-0とか載っているので、見れば分かると思います。

 

――ホーム&アウェーということですが、試合のための移動は大変ですか?

 

 いちばん遠いところで2時間くらいなので、基本的には当日移動です。ホテルには泊まりません。でも、試合1時間前に会場に着くんですよ。アップする時間ないじゃん、って。それが、イスラエルの当たり前なんですよ。

 

――対応力は身につきそうです

 

 そうですね。本当に自己管理です。慣れていかなきゃいけないし。自分が体を作るのに30分が必要だとして、その30分をくれる世界ではないので。例えば、アップで1から10までやりたいことがあったら、その中から一番大事な3つをチョイスするとか、そういう対応力はつきましたね。みんなは会場に着いてから着替えるけど、僕は家で着替えておいて、会場に着いたら5分短縮できるとか。

 

 

――自分でできるベストを尽くしていく

 

 トレーナーもいるのに、日本にいる時は甘えていたなって思います。イスラエルは完全にプロなので、けがしたら終わりなんですよ。腰が痛くて試合に出られませんとなれば、首を切られても文句を言えない。そういうリスクを背負っているので、けがをしないために自己管理をしなきゃいけないし、環境が整っていないとしてもチームのせいではないんです。自分がけがしたくないならば、チームがストレッチの時間を取らなかったことに文句を言っても意味がありません。自分で管理してけがをしないようにする。自己管理の意識は強く持っていますね。

 

日本人への信頼と感謝

 

――チームメートとはどうですか?

 

 ルームメートにもチームメートにもめちゃくちゃ恵まれていると思っています。本当にいい人たちです。これは多分、今村さんたちが築いてきた日本人に対しての信頼だと思います。日本人ってちゃんとしてるよね、いいやつだよねという感覚がこのクラブには間違いなくあります。だから、リスペクトを持って話してくれます。もちろん、僕がプレーで勝ち得たところもあるとは思うんですけど、今村さんたちには本当に感謝していますし、運がよかったと思います。

 

野瀬選手とチームメート(写真:本人提供)

 

 ルームメートのポーランド人は、英語もあまり分からない中、18歳の時にスロベニアに行ったけど、周りもあまり会話をしてくれなくて、1年間すごく寂しかったと言ってました。ここでは何かあったら助けてくれますし、ありがたいですね。僕は英語がそんなにできるわけでもないですし、ヘブライ語はまったくできません。だから、彼らの助けがないと生きていけないですよね。

 

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野瀬将平インタビュー【後編】アスリートはSNSを使うべき

 

野瀬将平

1993年7月20日生まれ/福岡県大刀洗町出身/ポジション・リベロ

東福岡高ではインターハイ、国体、春高に出場。慶應義塾大へ進み、U21日本代表として世界ジュニア選手権大会に出場。卒業後、2016年にFC東京入団。今シーズンはイスラエルリーグのハポエル・クファルサバへと移籍した。

 

 

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