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男子ポーランド代表のクレイジージャーニーは世界一のチーム内競争

■男子ポーランド代表が歩むクレイジージャーニーは世界一のチーム内競争

 2018年に世界選手権を制した男子ポーランド代表。世界屈指のタレント集団と、情熱的な指揮官が織りなすサクセスロードの今。

 

<男子ポーランド代表>

 

現体制で世界選手権優勝、ワールドカップ準優勝

 

 1年越しのオリンピックイヤーを迎え、各国も代表シーズンをスタート。すでに4月ごろから強化合宿に励み、5月下旬からリミニ(イタリア)で集中開催されるネーションズリーグを経て、戦いの舞台を東京2020オリンピックへ移していく。

 

 どのチームも“オリンピックの金メダル”を最大のターゲットにし、列強諸国との争いを制すべく、己を磨いていく。と同時に、オリンピックという舞台に立つ12名の座をめぐる争いも繰り広げられている。

 

 それは東京2020オリンピックの金メダル候補筆頭、男子ポーランド代表も同じ。そのサバイバルは世界一熾烈といっても過言ではない。

 

 まず、これまでの男子ポーランド代表を振り返ると、2017年に一度はフェルディナンド・デジョルジ氏が監督に就任したものの解任。2018年から現在のフィタル・ヘイネン監督体制となった。

 

 ヘイネン監督といえば、「私はクレイジーな人間だよ」と自負するほど。言い換えれば、それほどまでに熱心ということだが、とにかく個性的な人物だ。試合中の激しいリアクションのほか、インタビューでも自分のペースに引き込む。置かれた状況に苦言を呈することもいとわず、例えば2019年のワールドカップでは試合後の記者会見の時間短縮を訴えた。結果的に、そうした言動でその場を支配し、自分だけでなく選手そしてチームが有利に事を進められるように導く手腕は秀逸だ。

 

 もちろんバレーボールに関しては、卓越したチームマネジメントが武器。代表レベルでは2014年世界選手権で男子ドイツ代表を銅メダルに導いた実績を持ち、その4年後の世界選手権でポーランドに金メダルを持ち帰っている。翌年は東京2020オリンピック大陸間予選をクリアしたほか、ワールドカップで準優勝、ネーションズリーグとヨーロッパ選手権で銅メダルへと導いた。

 

 東京2020オリンピックは新型コロナウイルス感染拡大の影響のため延期となったが、昨年夏には代表合宿を実施。その後、クラブシーズンを経て、今年は4月から代表活動を始動した。

 

<フィタル・ヘイネン監督(写真右)>

 

地上最強アタッカーが加入し、チーム力はさらにアップ

 

 2017年からのサイクルにおいて、ヘイネン監督の就任と同時に大きなトピックスとなったのが、ウィルフレド・レオンの加入だ。弱冠14歳でキューバ代表入りを果たすと、2010年の世界選手権準優勝に貢献。その後、ポーランドに帰化し、2019年の夏から代表メンバーの登録が解禁されている。

 

 身長202センチ、最高350センチから強烈なアタックを繰り出し、時速130キロを超す弾丸サーブは、今まさに“地上最強アタッカー”と呼ぶにふさわしい存在。そのレオンが世界選手権王者に加わったのだから、対戦国にとっては脅威が増した以外の何物でもない。

 

 2018年の世界選手権を戦った主力メンバーを見ると、大会MVPに輝いたオポジットのバルトシュ・クレクとテクニックが光るアウトサイドヒッターのミハウ・クビアクが攻撃の中心。この2人とセッターのファビアン・ジズカ、リベロのパベウ・ザトウスキ、ミドルブロッカーのピヨトル・ノバコフスキはほぼ固定で、クビアクとノバコフスキの対角は対戦相手や試合の状況によって、選手が入れ替わっていた。

 

 もっとも誰が出ても劣ることがない選手層の分厚さと、また当時は前年の男子U21世界選手権優勝メンバーである若手選手たちも与えられた出場機会の中で引けを取らないパフォーマンスを披露した点に、ポーランド代表の底力を感じたものだった。

 

 やがて2019年のネーションズリーグでは、クビアクやクレクらの主力メンバーを欠いた、実質セカンドチームと呼べる陣容でありながら、フルメンバーのブラジルからファイナルラウンドで2勝(ファイナル6、3位決定戦)をあげている。

 

<ウィルフレド・レオン(写真コート奥)>

 

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<バルトシュ・クレク>

 

圧倒的な選手層から導かれる最適解は

 

 順当に考えれば、「クビアク&クレク+レオン」という図式が現時点における、男子ポーランド代表のいわば“最強アタッカー陣”ではあるが、実のところ、これは主要国際大会において実現していない。2019年はクレクがケガのため、代表シーズンの大半をリハビリに費やし、復帰したのはワールドカップだった。このとき、レオンやクビアクは直前までヨーロッパ選手権を戦っていたため合流は大会途中から。以降も、この3人がそろって1セットを通して戦った場面はなく、まだベールに包まれたままなのだ(紅白戦、国際親善試合、プラクティスマッチを除く)。

 

 いざ、この3人が並んだときにポーランド代表がどのような力を発揮するかは、お楽しみといったところか。

 

 一方で2018年以降、選手層はさらに厚くなっており、この3人を脅かす選手たちも出てきている。

 

 アウトサイドヒッターでいえば、今年5月のCEVチャンピオンズリーグでケンジェジン-コジエ(ポーランド)を優勝に導きMVPに輝いたアレクサンデル・シリフカと、レシーブで安定感あるカミル・セメニウクが台頭。モデナ(イタリア)やカザン(ロシア)といった強豪クラブで実績を積んだバルトシュ・ベドノシュも、その実力は確かだ。

 

 オポジットも、シリフカらと同様にケンジェジン-コジエで勝負強さを印象づけたウーカシュ・カチュマレクや、ロシアリーグで2019/20シーズンに最多得点、2020/21シーズン終盤にはヘイネン監督が指揮するペルージャ(イタリア)に移籍したマチェイ・ムザイもメキメキと成長を見せている。

 

<ミハウ・クビアク(写真右から2番目)>

 

ネーションズリーグの登録18名を選出

 

 今年の現地5月13日にはベルギーとのプラクティスマッチを実施し、そこではお互いにサブメンバー中心の試合ではあったものの、ポーランドは4セットを戦い、圧倒(25-13,25-14,25-14,25-17)。その後、チームはネーションズリーグに臨む登録18名を以下のとおり発表した。

 

<ネーションズリーグ2021登録メンバー18名>

セッター:マルチン・ヤヌシュ、グジェゴジュ・ウォマチ、ファビアン・ジズカ

リベロ:ダミアン・ボイタシェク、パベウ・ザトウスキ

オポジット:ウーカシュ・カチュマレク、マチェイ・ムザイ、バルトシュ・クレク

ミドルブロッカー:カロル・クウォス、マテウシュ・ビエニエク、ピヨトル・ノバコフスキ、ヤクプ・コハノフスキ

アウトサイドヒッター:カミル・セメニウク、アレクサンデル・シリフカ、バルトシュ・ベドノシュ、トマシュ・フォルナル、ウィルフレド・レオン、ミハウ・クビアク

 

 メンバー発表の際、ヘイネン監督はアウトサイドヒッターで最後にクビアクの名前を読み上げる前に、「もちろん、ミハウ・クビアク」と強調したあたりは信頼の表れが見て取れた。

 

 同時に、当初の合宿参加メンバーからは6名が外れることになった。その中には、2018年世界選手権優勝メンバーであり2019年のワールドカップ日本戦でもスピード感あるアタックを繰り出したアウトサイドヒッターのアルトゥル・シャルプクや、これまでの主要国際大会で名前を連ねてきたオポジットのダビド・コナルスキが含まれている。

 

 人選についてヘイネン監督はベルギー戦後、ポーランドのスポーツチャンネル「POLSAT SPORT」の取材の中で、このように語った。

 

 「今回の18名の選別は、私のコーチ人生の中でも、最も心が揺れ動くものでした。ここには、ほんとうに素晴らしい24名がいる。そこから外さざるをえない6人に対して、『私はあなたたちを信頼しているが、それでも、他の選手に比べると足りない点があった』と言わなければなりませんでした。心苦しいが、それが私の仕事の一部なのですから、やるしかありません」

 

 決断の苦しみは、これからも指揮官につきまとう。ネーションズリーグの18名から、さらにオリンピックの12名へと厳選する仕事が待ち構えているからだ。

 

 熾烈なサバイバルは、そのチームの強さの表れでもある。世界屈指の猛者たちと歩むクレイジージャーニーは、最高のエンディングを目指し、最終章へ突入しようとしている。(文/坂口功将〔編集部〕)

 

<2019年ワールドカップでは準優勝。さらなる飛躍へ(写真:FIVB)>

 

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<写真:月刊バレーボール編集部(2018年世界選手権、ネーションズリーグ2019)、平野敬久(ワールドカップ2019)>

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