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夜勤明けの練習に1年のブランク!? “ハコヅメ”Vリーガー 警視庁フォートファイターズのリアル

 最近では実写ドラマ化やアニメ化もされて、警察官が話題になっている。私たちの生活にある意味、身近な存在でありながら、その実態は知られていない。それゆえに、反響を呼んでいるのだろう。

 

 作品では多岐にわたる仕事への向き合い方や、その仕事ならではの気苦労やリアルな様子が描かれており、筆者もハマった読者の一人だ。

 

 さて、そんな警察官たちがバレーボール選手として活動し、国内リーグを戦っているチームがある。選手全員が現役警察官。V.LEAGUE DIVISION2 MEN(V2男子)の警視庁フォートファイターズのことだ。昨年末のV2男子の富士通カワサキレッドスピリッツ戦で奮闘した在籍4季目の阿部翼とルーキーの齋藤浩貴に話を伺い、そのリアルに触れてみた。

 

<V・チャレンジリーグ(現・V2)では2013/14シーズンに優勝した実績を持つ警視庁フォートファイターズ>

 

主には施設の警備にあたる選手たち

 

 まず、警視庁フォートファイターズはチームのホームページ(といっても警視庁のウェブサイトになる)にも記載があるように、「特科車両隊」に属している。その中で、阿部選手は機動隊の仕事に就き、主には公的な施設の警備にあたっている。今となっては久しい光景だが、イベントごとがあった日に“渋谷のスクランブル交差点”で交通整理をするのも、彼らの仕事なのだという。

 

<力強いアタックをセンターエリアから繰り出す阿部(写真右端)>

 

 警察官の勤務形態はシフト制。部署によって異なるそうだが、夜勤(泊まり)もある。「泊まり明けの仕事はだいたい昼前に終わります。オフシーズンですと、そこから練習に向かいます。夜通しで仕事をしているので、眠いし、体は重たいし…、そのときの練習はつらいですね(笑)」と阿部。

 

 リーグ戦が始まれば夜勤と試合が重なる場合もあり、その際は職場の方々にカバーしてもらっているそうで、「バレーボールに集中できる環境を整えてもらえています。自分は小さいころから競技に慣れ親しんできたので、そうやってバレーボールに打ち込めるのは、昔の学生時代を思い出します」とも。仕事をするうえで避けては通れない、つらさがそこにはある。その分、バレーボールができるうれしさも増すのだ。

 

<アップゾーンに控える仲間たちへガッツポーズ>

 

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<即戦力ルーキーとして期待される齋藤(写真左端)>

 

一人前になってからチームに合流

 

 今季からチームに入団した齋藤も、そのことを実感している。実は、齋藤は大卒2年目だが、入庁1年目は警察学校に入学し、そこから一度は警察署に配属され、再び警察学校へ。これは、バレーボール部員全員が通る道だという。

 

 丸々1年間は、練習はおろか、まったく競技もできない。齋藤は「そうした期間を経て、警察官として一人前になってから、ようやくチームに合流して練習に参加できるんです。やっとバレーボールができる、といちばんにうれしさがこみあげてきました。やはりバレーボールがしたくてたまりません。自分にとって唯一の趣味であり、息抜き。もちろんVリーグを戦う以上は、チームが勝つために頑張りたいと考えています」と話す。

 

 1年のブランクがあった齋藤は昨年11月28日(日)に、駒澤大時代の同期で、富士通に所属する谷平拓海とネットを挟んで再会。「初対決でした。どうしても自分はバレーボールと離れた期間があったので、谷平は別格に強かったです。追いつけるように頑張ります」と意気込んだ。

 

<齋藤は表情豊かにコートを駆け回る>

 

コートの内でも外でも緊張感と戦う

 

 齋藤の場合は、先輩の阿部やほかの選手たちのいる機動隊にまだ合流しておらず、いわゆる交番勤務に携わっている。

 

 「皆さんが見るような交番で、警察官をしています。町を警戒したり、落とし物があれば対応したり、といった業務になります。

 

 さまざまな110番が入るのですが、一見ささいなこともあれば、重大な事案もあります。それらは実際に私たちが現場に行かないことにはわかりません。ですので、精神的にもずっと気を張っているような感覚ですね」と齋藤。

 

<チームロゴには警視庁のマスコットキャラクター、ピーポくんが>

 

 コート上では相手の攻撃をブロックする彼らも、コートを離れれば、私たちの生活を守ってくれているのだ。そして、そこには緊張感が伴っている。機動隊に配属される前は交番勤務を経験(このルートも全員が同じ)していた阿部は振り返る。

 

 「110番が入って、交番にいる全員がダッシュで現場に駆けつけたこともありました。

 今いる機動隊も警備が仕事ですが、朝だろうと深夜だろうと、いつ悪さをする人が来るかわかりませんので、その緊張感は常に持っています」

 

 現役Vリーガーが警察官の姿をして警戒している。気づいたかたは思わず声をかけてしまうかもしれない。実際に、そうした経験もあったそうだが…。

 

「知り合いが自分に気づいたのですが、『今は仕事中なので、勘弁してほしい』と(笑) 仕事中は一瞬の油断が命取りになるので」(阿部)

 

 コート外でも、彼らは戦っているのだ。だから、もし気づいたかたはそっと見守り、そして試合同様のエールを心の中で送ってもらいたい。

(文・写真/坂口功将〔編集部〕)

 

<ゲームでは緊張感を力に変えて、勝利を目指す>

 

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