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春高2024

5季ぶりV逸、1部昇格への挑戦。富士通が向き合った「楽しむこと」の本質〔後編〕

  • 編集部取材
  • 2022.05.27

<セッター⑱長谷山拓がリズミカルなトスワークで攻撃を組み立てる>

 

「楽しもう」。そのために必要なことは

 

 この連敗が転機になった。選手たちは再び、全力で戦うことの意味を再確認したのである。その中の一人、在籍2季目のエバデダン ジェフリー 宇意は振り返る。

 

 「負けてから気づくようではダメなのですが、やはりこれまでを振り返ると、仕事とバレーボールを両立するうえで、どこか甘えていた部分があったと痛感しました。例えば、仕事が大変だから、少し練習で手を抜こう、とか。

 ですが、チームのみんなはどれだけしんどくても、そのうえで勝つために何が必要かを必死で考えています。だからこそ僕自身は、それをいかにコート上で表現するかをこれからも考えながら取り組んでいきたいと思えるようになりました」

 

 2月26日から27日にかけて行われた今季最後のホームゲーム2連戦を勝利で飾ったあと、栁田もジェフリーの言葉にうなずくように、そして、残りのシーズンへの意気込みをこのように語った。

 

 「連敗したときに、会社の周りの方々から『残念だったね』と言われて、悲しい思いをさせてしまったと気づいたんです。やはり応援してもらうためには、仕事もバレーボールも頑張らないといけません。

 それに、今季はV1を目指す以上、プレッシャーもこれまでの比ではないですが、その重圧に負けないように、自分は楽しめたらなと思います」

 

 結果的にV・レギュラーシーズン最終戦でヴォレアスに敗れ、自己記録を更新するリーグ5連覇は達成できず、5季ぶりの2位に終わる。だが、自分たちのやるべきこと、そして富士通らしさとは何か。そこに対する迷いを振り払い、チームは4月9日のV・チャレンジマッチに臨んだのであった。

 

<ポイントゲッターの⑪浅野卓雅は「ともにV・チャレンジリーグⅠ(現・V2)時代に戦っていた相手だけに負けたくない」と、大分三好戦へ強い思いで臨んだ>

 

V・チャレンジマッチの先に見えた、次なるステージ

 

「より楽しみたい、より楽しまないといけない、と思ったシーズンでした。プレッシャーもたくさんあったし、いちばん怖かったシーズンではあるんですけど、その分、いちばん勝ちたいシーズンだったし、勝たないといけないシーズンでした。だからこそ『いちばん楽しまないと!!』と思って臨みました。

 これはプレッシャーのかかる試合になるほど、忘れがちなんです。V・レギュラーシーズンの最終戦(対ヴォレアス)はまさにそう。自分が楽しむ準備と、周りを楽しませる準備が必要だと実感しました」

 

 シーズンを終えて、栁田はしみじみと胸の内を明かした。V1のステージが現実的なものになった今、“富士通のバレー”でV1のチームと勝負できることを証明したかった。そして、自分たちのバレーを発揮するためにも、しっかりと対策を講じ、コート上では全力で弾けた。

 

<セット間のコートチェンジ時も栁田はファンの声援に応えた>

 

 大分三好と対戦し、勝ち星を奪った4月9日。敗れても競り合いまで持ち込んだ翌10日。この2日間の彼らはコミカルなパフォーマンスを繰り出し、とびきりの笑顔を観客席に向けて送っていたのである。「いちばん、自分たちらしさを出せたと思います」とキャプテンが胸を張るのも納得だった。

 

 そして、試合中もセット間のコートチェンジでも応援するファンへ常に何かしらのアクションを起こしていた栁田自身は、新たな感覚を覚えていた。

 

「選手として、さらに一段階上の可能性を感じることができたんです。特に2日目の第3セット(36-34で富士通が奪取)。勝負のかかった場面で僕自身、周りを盛り上げながらも、闘志をプレーにぶつけることができました。いちばん緊張がかかる局面で最も得点率が高かったことも、自分の中では、さらに一つ上のステージがあると思えた要因です。

 もっともっと自分はできるし、もっともっと楽しませることができる。この先がある、と思えました」

 

 これまでと違うシーズンで味わった苦悩や手応えを胸に、来季はきっとまた一味違う姿を見せてくれるに違いない。それでも、「明るく、楽しく、そして強く」はこれからも富士通カワサキレッドスピリッツそのものであり続ける。

 

<来季はどんな姿を見せてくれるだろうか>

 

(文・写真/坂口功将〔編集部〕 写真〔天皇杯〕/中川和泉〔NBP〕)

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