サイトアイコン 月バレ.com【月刊バレーボール】

[連載①]デンソー復帰の辻健志監督が語るチームの変遷と展望/「50年目にBEE CHAMPION」

 1972年に創部され、2022年に50周年を迎えたデンソーエアリービーズ。その節目の年に掲げたスローガン「BEE CHAMPION」の元、2022-23 Vリーグではその言葉に記された頂を目指す。半世紀を経て、次にチームが歩む先は。全4回の連載企画、第1回は指揮官が描くデンソーエアリービーズの姿

 

 

9季ぶりに辻健志監督が復帰

 

 2022-23シーズンからデンソーの指揮を執る辻健志監督。ここで采配を振るうのは、実に2013/14シーズン以来となる。

 

 その13/14シーズンはV・チャレンジリーグ(当時/現・V2)に降格したタイミングであり、トップリーブ昇格が使命。周囲の期待を一身に浴び、結果として1年でのV・プレミアリーグ復帰に導くことに成功するのだが、当時を振り返ると辻監督の口元から苦笑いがこぼれる。

 

 「プレッシャーに負けていたわけではないのですが、その前年までコーチや代行監督といったかたちでチームに携わっていて、やはり下部リーグに降格させてしまった責任を大きく感じていたので。1年で戻るんだと覚悟して臨んだシーズンでしたが、基本的にポジティブ人間である自分が、このときばかりはネガティブに支配される時間が長かった。しんどい時間を過ごしていたのが、正直なところです」

 

<今季から自身2度目となる指揮を執る辻監督>

 

 思い返したくない過去と言えば、それまで。とはいえ、1シーズンでの復帰という結果が、自分自身を救ったのは事実だった。と同時に、今も大きな喜びとして記憶に残っている。

 

 「覚えていますよ!! やはり、みんなで一つのことを成し遂げるのは、こういう喜びがあるんだな、と。選手たちもすごく責任を負って戦ってくれていましたし、それが報われたわけですから。私の人生においても、大きなトピックになっていますね」

 

 トップリーグへの昇格を果たし、辻監督は「さぁ、これからだ」という思いを抱いていたが、会社の「グローバルな視点を持っていこう」という後押しもあり、その後8年は女子日本代表のシニア、アンダーエイジカテゴリーの現場に携わることに。そこでは世界のバレーボールに触れ、そうして再びデンソーに戻ってきた。

 

「監督という立場は同じですが、13/14シーズンのあのときとはまるで違う感覚ですね」と辻監督。そのまなざしはポジティブそのものだった。

 

>>><次ページ>求めるのは、結果だけではなく…

 

<国内最高峰のリーグで戦うデンソーエアリービーズ>

 

求めるのは、結果だけではなく…

 

 そもそも辻監督とデンソーの歩みは長く、2000年までさかのぼる。中京大で大学院に進み、バレーボールの指導を学びながら、デンソーの練習に手伝いとして参加したのがきっかけだ。大学時代は男子バレーの指導に携わりたい思いを持っていたが、恩師から命じられたのは「女子を指導しなさい」。その理由は謎に包まれたままだと辻監督は笑うが、それがやがて国内トップリーグで指揮し、ひいては日本代表に指導にまでつながるのだから、人生とはおもしろい。

 

 コーチ時代も含めると、チームの歴史の3分の1近くを過ごしてきたわけだが、辻監督が追い求めるのは、チームの勝利だけではない。デンソーという企業が持つチームだからこそ、担うべき責務があるのだ。

 

 「会社からはシンボルチームというかたちで、バレーボールを含めて6つの競技が強化クラブとしてバックアップをいただいています。最近では東京2020オリンピックでメダルを獲得されたバスケットボール女子日本代表の高田真希選手がデンソーでプレーされています。

 

 やはりバレーボールも日本代表を筆頭に、注目される選手が常に在籍しているチームでありたいとは思います。ただ、日本代表の選手だけがすべてかと言われれば、そうではないと考えています。それは結果も同じ。Vリーグでの優勝を目指して、会社から後押しをいただいているとはいえ、その優勝だけがすべてではない、というのが私の考えです。

 

 というのも、日本バレーボール界が発展していけるような取り組みはチーム側からも発信できると考えていますし、そうした視座を高く持っていこうとは会社からも話をいただき、選手たちに伝えています。例えば、一人の社会人としての立ち居振る舞いも、その一つです。そのことはすごく意識しながら、活動するようにしています」

 

>>><次ページ>西尾市、郡山市、札幌市の3つをホームタウンに

<ユニフォームにはホームタウン協定を結んだ都市の地名が並ぶ。写真は2022 V・サマーリーグ女子大会>

 

西尾市、郡山市、札幌市の3つをホームタウンに

 

 その中の一つは地域貢献活動である。2018年に行われたリーグ再編を転機に、Vリーグでは各チームが地域とのつながりをさらに深める動きが見られるようになった。そんな中、愛知県西尾市で歴史をつむいできたデンソーは会社の拠点がある福島県郡山市をセカンド、北海道札幌市をサード、と今では計3つのホームタウンを設定し、提携を結んでいる。デンソーのユニフォームを見ると、スポンサーマークと同様に、パートナーシップの証しとして各都市名が記されていることがわかる。

 

 今年4月、辻健志監督は就任を控え、西尾市を中心にグリーティング(挨拶)に回った。すると、そこでは地域との交流の深さを感じたという。

 

 「西尾市で挨拶させていただいたときも、チームが認知されていることを感じました。また、スポンサーの方々ともお話をさせていただき、応援してもらっているとも。そのあたりは、以前とは全然違うなと思いました。

 

 今回は黒鷲旗までの時間をそうした機会に充てることができたのですが、足を運んだことで相手方にも喜んでいただけたり、その期待を私も一身に感じることができました。地域とのつながりをいろんなところで感じられましたのは、とてもよかったです」

 

 今後は西尾市に隣接する岡崎市もホームタウンに準ずるかたちで、ホームゲームの開催もされている。愛知県でも西尾市・岡崎市はバレーボールが盛んなエリア。今年8月には岡崎市と地域の活性化を目指し、「スポーツ振興に関する協定」を締結した。地域との連携は、チームの発展に欠かせない。

 

 「地域の方々とつながっていくためには、在籍している選手たちにもそのことを認識してもらうことが大事。一人でも多くの方々に、魅力を伝えられる選手やチームでありたいと思っていますし、それを掲げています」

 

 50周年の節目に目指す、初のリーグ優勝。企業の期待も注がれるが、その喜びをチームが活動する地域の方々とともに味わいたい。それが今季、デンソーエアリービーズが描く姿でもあるのだ。

【第2回に続く(近日公開)

 

「一人でも多くの方々に、魅力を伝えられる選手やチームでありたい」-辻健志監督

 

(取材・文/坂口功将〔編集部〕)

 

モバイルバージョンを終了