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「描いた3年間ではなかったけれど…」福井工大附福井高 谷口暖宗がかつて日の丸をつけた自分に伝えたいこと 『2人の“はると”《後編》』

 

 

 高校生バレーボーラーにとっての集大成、「春の高校バレー 全日本高等学校選手権大会」(以下、春高)が今年1月上旬に行われた。男子は駿台学園高(東京)が頂点に輝き、エースの佐藤遥斗(さとう・はると/3年)が最優秀選手に選ばれている。その佐藤と同じ名前で、そして、かつて全日本中学生選抜でともに過ごした2人の“はると”もまた、高校生活最後の春高を戦い抜いた。東北高(宮城)の小山暖人と、福井工大附福井高(福井)の谷口暖宗。彼らが高校生活最後の晴れ舞台で見せた姿を、ここに記したい(全2回)

 

『2人の“はると”《前編》』はコチラ

 

《後編》ポジションは定まらず、レギュラー定着までに苦戦。それでも谷口暖宗が晴れやかだった理由

 

 

谷口暖宗(たにぐち・はると/福井工大附福井高〔福井〕3年/身長185㎝/最高到達点320㎝/ミドルブロッカー)

 

中学3年生時の全日本中学生選抜でキャプテンを務めた谷口

 

〔秘蔵写真15点〕佐藤遥斗や當麻理人、脇田孝太郎ら令和元年度全日本中学選抜の海外遠征ギャラリー

 

 中学生世代の育成事業として、全日本中学生選抜の活動がある。そこで名前を連ねる12名は日の丸がついたユニフォームを着て、主には海外のチームとの実戦経験を積む。ちなみに今年(2022年度)はイタリア遠征が2月下旬に予定されている。

 ここ2年間はコロナ禍のため未実施だったが、3年前にはオーストラリア遠征を実施。当時の彼らは早や高校3年生となり、そして今年1月の春高で最後の公式戦を戦い終えている。

 その令和元年度(2019年度)全日本中学生選抜の男子チームでキャプテンを務めたのが福井工大附福井高の谷口暖宗だ。攻守でバランスがとれ、何よりリーダーシップにたけていた。

 谷口が先頭に立ったチームには、佐藤遥斗のほか、當麻理人(東山高〔京都〕)、川野史童(東福岡高〔福岡〕)、脇田孝太郎(崇徳高〔広島〕)といった、その後の高校生活で実績を残した面々が並んでいた。中学生時点でチーム全体のポテンシャルも高く、海外遠征ではU21オーストラリア選抜(シニア代表候補選手も中にはいた)を相手に勝利を収めている。それほどの逸材たちの中、谷口自身もまた将来に大きな夢を描き、高校のステージに上がった。だが、そこからの道のりは描いていたものとはまるで違った。

 

 

全日程の試合で勝利を収めた全日本中学生選抜。全員が元気いっぱいにプレーした(①が谷口)

 

レギュラーをつかめず、ポジションも移り変わった

 

 中学まではチームでエースを務めていたが、入学当初からアウトサイドヒッターには各年代トップレベルの先輩たちがそろい、谷口は活躍の場を求めてあらゆるポジションにトライする。1年目はミドルブロッカーも、2年目はセッター、そして最上級生になってからはオポジットでプレーした。

 3年目になりレギュラーの座をつかんで臨んだインターハイ、谷口はそれまでの思い出をかみしめていた。

 「なかなか試合に出る機会もなかった。でも、その間にほんとうにいろんなポジションをさせてもらえました。その分、経験値では絶対に負けていないと思えるんです」

 負けたくない相手。そこには、かつて全日本中学生選抜でともに戦った面々が含まれている。あのときのメンバーは実力校に進み、練習試合や各大会で顔を合わすことも少なくなかった。ただ、向こうはレギュラーでも、自分はそうでない。そんな時間を長らく過ごしてきたわけだが、谷口は「2年間、充実していましたから」と胸を張るのであった。

 そのインターハイでは決勝トーナメント2回戦で崇徳高と対戦。相手エースの脇田とマッチアップし、きれいなブロックシャットを決める場面もあった。

 「僕らの代で脇田といえば、水町泰杜選手(早稲田大)みたいな存在ですから。よく跳ぶし、一歩でもブロックのタイミングがずれると器用に得点される。

直接対戦したことはなかったんです。全中選抜のときから『すごい』と思っていた相手を止めることができて、素直にうれしかった」

 

 

高校3年生時のインターハイにて、崇徳高③脇田とマッチアップした

 

【次ページ】ミドルブロッカーとして臨んだ最後の春高ではサーブで貢献も

 

プレーの幅の広さを武器に、最後の春高では前衛で存在感(左端)

 

ミドルブロッカーとして臨んだ最後の春高ではサーブで貢献も

 

 インターハイを終えてからはミドルブロッカーに転向したが、それも「一人時間差やライト平行だったり、オポジットをやっていたからこそできる攻撃があったので、楽しかった」と前向きにとらえていた。

 そうして、最後の春高では“引き立て役”に徹する。チームの泉田丈琉と堤凰惺の2枚看板を生かすためにも、攻守で存在感を発揮することを心がけて谷口はコートに立った。

 同時に、準々決勝の鎮西高(熊本)戦では自らのサーブでチームに流れをもたらした。フローターサーブで明確にターゲットを狙いつつ、続けざまにドライブに切り替えるハイブリッドサーブでサービスエースを奪う場面も。

 「ショートサーブを打っていれば、リベロも前に出てくるじゃないですか。そこでハイブリッドサーブを打つと、相手も感覚がずれるので。奥に打てば決まりやすくなるという狙いです。実は県大会でもやったことを思い出して。サーブで崩さないと勝てないと思ったので、練習はしていました」

 優勝候補筆頭の鎮西高を相手にフルセットまで持ち込むなど、追い詰めてみせた。だが最後は力及ばず、谷口の高校生活は春高ベスト8という結果で幕を閉じた。

 

 

狙いどおりのサーブをていねいに打ち込み、チームに貢献した

 

かつて日の丸をつけた自分へ、メッセージを送るとすれば?

 

 試合後、その表情はどこかすっきりとして見えた。

 「負けたことは悔しいんですけど、誰が見てもナイスゲームと呼べる内容でしたから、誇ってもいいと思うんです。あんまり涙が出てこないのは、やりきったからでしょうね」

 高校バレーを戦い終えたいま、晴れやかでいられるのは、やはり過ごしてきた時間が充実感で満たされているからだ。

「高1、高2と上級生の方たちが教えてくれたから、今の自分がある。2年間、試合には出られなかったけれど、先輩たちが経験値を自分に与えてくれた。周りから見れば、3年目でレギュラーに立ったと映るかもしれませんが、それ以上のものがあったと自分では思うので」

 最後に聞いてみた。かつて日の丸をつけて、同年代の選ばれしメンバーの中でキャプテンを担った中学3年生の谷口暖宗に声をかけるなら?

 「うーん、そうですね…。いろいろ言いたいことはありますが。自分が思い描いたポジションとは違ったり、望んだ結果は出ていなかったけれど、3年間ずっとおもしろかったですから…」

 答えは、シンプルだった。

「『バレーボール、おもしろいよ』って。そう言いたいですね!!」

 

 

日の丸をつけた、あのときの自分へ。胸を張れる高校生活だった

 

(文/坂口功将〔編集部〕)

 

 

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