季節も冬にさしかかり、2025年度のビーチバレーボールシーンも閉幕が近づく。振り返れば今年は、インドアとビーチバレーボールの「二刀流」という単語がいたるところで聞かれた。
筆頭はSVリーグ男子のウルフドッグス名古屋とビーチバレーボールのトヨタ自動車でプレーし、9月にはジャパンビーチバレーボールツアー(以下、BVT)で大会初優勝を飾った水町泰杜。また日本代表にも登録されているセッターの山本龍はこの夏、滋賀県代表として「ビーチバレージャパン JVA第39回全日本ビーチ選手権大会 男子」に出場。さらに、パナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)から海外リーグでのプレーを経て、現在は奈良ドリーマーズに所属する今村貴彦も今年、ビーチバレーボールへ本格的に挑戦する意向を表明した。
クラブシーズンでは主にインドアを、それ以外の夏場いわゆるオフシーズンでは真剣勝負ないし娯楽も含めてビーチバレーボールをプレーする。そうした二刀流は海外においてスタンダードともいえ、日本でも上記の選手たちだけでなく、特にアンダーエイジカテゴリーでそうした傾向は強くなりつつある。いずれは「二刀流」という単語や考え方自体が一般的になるかもしれない。
さて今年の夏、どちらかといえばおそらくはインドアでプレーする印象のほうが強い選手の姿が砂の上にあった。6月にTACHIHI BEACH(東京)で行われた「BVT第4戦 立川大会」の女子に、東谷玲衣奈が参加していたのである。
幼少期から付き合いのあった熊田美愛と大会に参加
東谷といえば学生時代からポテンシャルを高く評価され、名門・八王子実践高(東京)時代にはジュニア女子日本代表のメンバーとして第18回アジアジュニア女子選手権大会(U19)に出場している。高校卒業後はデンソーエアリービーズに入団し、2019年にはシニアの日本代表に登録された。やがてフィンランドリーグと韓国Vリーグを経て、昨季はデンソーに復帰、この2025/26シーズンは韓国のGSカルテックスでプレーしている。
プロ選手としてキャリアを歩んでいるわけだが、ビーチバレーボールとのつながりは幼少期からあったという。
「初めてビーチバレーボールをやったのは小学生の頃、それこそ(インドアの)バレーボールと同じタイミングです。そこから小中高と夏の時期はビーチバレーボールをしていました。本格的に指導してもらうことはなくて、なんとなく、で今に至りますけれど(笑)
ビーチバレーボール、おもしろいです。でも、まだまだだなぁ、と感じます。『このシチュエーションではこうする』といったセオリーなどがわかっていないので、そこを学びたいですね」
東谷の場合、オフシーズンは毎年、平塚(神奈川)でビーチバレーボールの練習に励んでいるそう。立川大会には同じ八王子実践高出身の先輩である熊田美愛(株式会社カインドッグス)と参戦した。
「学年は被っていないのですが、小学生から所属先のチームがずっと一緒で、(熊田)美愛さんが高校生の頃にジュニアチームを教えにきてくださったことがきっかけで、何かとお世話になっていたんです。美愛さんは大学に進学されて、ビーチバレーボール選手として活動され、ご出産後はプレー期間も少し空いていたようですが、また復帰されたということで今回、組ませてもらいました。美愛さんのライフスタイルは素敵だなと思いますね。自由人なので(笑)」
そうほほえんだ東谷だが、彼女自身も相当の“自由人”である。デンソー時代にはヘアースタイルを自前でコーンロウに仕立てる姿が見られたもの。そして、海外リーグへ挑戦したこともそうだ。今でこそ女子でもプロ契約の選手は増えつつあるが、東谷が社会人になった当時は、各チームもいわゆる実業団の色合いが濃く、選手たちも大半が社員契約だった。そのなかで東谷はデンソーを退社し、プロ選手として活動することを決断している。
「ずっと海外には興味があったんです。デンソーを退社したことは自分にとって大きな一歩でしたね。そうして初めて海外のリーグにいきました。プレー面でいえば、フィンランドは他の欧州圏に比べると、比較的レベルが高くなかったので、すぐに馴染めることができました。
それ以上に、生活する環境自体が海外に移ることへの不安がありました。高校もデンソー時代も寮生活でしたし、人生で初めての一人暮らしがフィンランドだったんですよ。自炊するのも初めてで、どれもが新鮮でした。海外で暮らしたことは大きな挑戦で、いちばんいい人生経験になったと思います」
一人のバレーボール選手としての、競技との向き合い方と今後
国内リーグで活動し続ける道だってあったはず。けれども、自分の意思に従った。そのきっかけは2020年から始まったコロナ禍だったと東谷は振り返る。
「コロナ禍で『ずっとこのままでいいのかな』と考えたときに、自分の気持ちに正直になろうと思ったんです。バレーボールもできなかったですし、時間があると、その分、いろいろと考えちゃうじゃないですか。そうしたら、『やりたいことをやっておこう!!』って」
ときに、それまでの人生で触れてきた慣習や身についた規律は、人格を形成する手立てとなる一方で、選択の自由度を狭めてしまうことにだってなりえる。けれども東谷は「なりたい自分、進みたい道」を選んだ。
「昔から自由人な気質はありましたけどね(笑) でも、ほんとうに自由にやらせてもらえていることに感謝です。デンソーにも理解していただき、また帰ってくることもできました。よく、ずっと所属していたように思われるのですが、実際に復帰してからは1シーズンしかプレーしていないので、そこは申し訳ないとも思います。けれども、今がいちばん楽しいかもしれません」
砂の上で、はつらつとした表情でボールを追いかけていた東谷に聞いてみる。これからバレーボール選手としてのキャリアをどう歩んでいきたいと考えているのか。
「いやぁ、もう何も考えていないんです。そのときのフィーリングで、やりたい方向に進んでいく、という具合です。今はとりあえず目の前の韓国Vリーグで頑張ろう、と。その次のシーズンのことは全然考えていません。
バレーボールが好きだから、ですか? というよりも、気づいたらバレーボールをずっとやってきたので。むしろ、自分の取り柄はバレーボールかな、と思っています」
彼女にとってバレーボールとの向き合い方も、自由奔放そのものだ。今この瞬間のバレーボールが楽しい。それはインドアでもビーチでも。きっとそこに、二刀流という競技間の垣根はない。
(文・写真/坂口功将)
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