男子日本代表は8月10日から6日間、鹿児島県薩摩川内市のサンアリーナせんだいで合宿を行った。今季ネーションズリーグ(VNL)で破竹の13連勝を達成したチームが、1週間の休みを経て入った「地獄」の薩摩川内合宿で見せた表情とは。公開練習および合宿最終日に行われた紅白戦の様子から、9月4日(金)より福岡県で行われるアジア選手権に向かう「チームの今」を追った
石川祐希が挙げたチームの課題と強み
薩摩川内合宿のメンバーは、ロラン・ティリ監督をはじめ、キャプテンの石川祐希に、西田有志、小野寺太志、深津英臣、宮浦健人、大塚達宣、山内晶大、河東祐大、髙橋健太郎、富田将馬、髙橋藍、小川智大、甲斐優斗、西本圭吾、山本智大、エバデダン ラリーら、選手とスタッフを合わせて33名が参加。最終日の公開練習には高橋慶帆も加わった。
11日の公開練習には2000人を超えるファンが集まり、歓迎式も実施された。石川主将は「毎年多くの方々に応援していただき感謝している。アジア選手権に向けて薩摩川内で充実した合宿にしたい。気持ちを強く持ち、絶対にアジア選手権で勝って、ロサンゼルスオリンピックの切符を勝ち取りたい」と意気込みを語った。また石川主将は「チームの課題はサーブとサーブレシーブ。チーム力とサイドアウトを取れるところは強みなので、それを生かせるバレーをしたい」と、チームの状況を分析している。
なお、今回の公開練習では、石川主将と髙橋(健)は別メニューでの調整を行った。
鹿児島市出身の河東がA代表に初招集
セッターに河東が招集されたことも話題となった。7月に日本代表Bのメンバーとして薩摩川内合宿に参加していた鹿児島市出身の河東。アジア選手権に向けたチームへの合宿参加に「驚いたが、光栄なこと。選んでいただいたからにはやるしかない」と奮起する。いい緊張感の中、先輩セッターの深津と情報を共有しながら、スパイカー陣と息を合わせた。「自分の持ち味であるていねいなトスを供給して、チームの勝利に貢献したい」と清々しい。
ウォームアップ後のボールゲームでは、選手もリラックスした表情で観客を魅了した。リベロ小川が貴重なスパイク姿を見せる一方、慎重に見送ったボールがライン上に落ちると、ティリ監督が「イン!」と指差し、どっと沸く一幕も。サーブ、スパイク練習で約1時間。その後、セッターを入れ替えながら6対6のゲーム練習、続いて21-21のスコアからのシチュエーション練習を行った。ティリ監督もコートに入り、ポジショニング、守備時のフォローなど細かい点を熱心に指導する。全体練習が終わっても、セッターとミドルブロッカー陣はコンビを確認し、甲斐はコーチ陣とサーブレシーブやディグの練習を重ねていた。
ゲームでの再現性を高める練習
12日は薩摩川内市民に向けた公開練習を実施。この日は村島陽介S&Cコーチ アスレティックトレーナーの誕生日ということで、練習開始前に選手とスタッフ、そして観客も一緒にお祝いをした。練習では、2枚ブロックを置いての攻守に時間を割いた。ミドルブロッカーとアウトサイドヒッター、ミドルブロッカーとオポジットのコンビでブロックに対するオフェンスを確認、トスの調整など行う。守備側ではリベロがセットするシーンなどを想定。確認ができると、ブロック役のコーチが外れ、6対6での練習を実施。前日と同様、セット取得まであと5点、あと2点のシチュエーションでの実践練習を繰り返した。給水以外は、ほぼ通しでの練習だ。「心拍数が上がる」練習をする、との監督の言葉に誇張はない。
VNL13連勝の成果
2年目となるティリ監督体制の下、日本はVNLで史上初の予選ラウンド全勝を含む、13連勝という快挙を達成。準決勝ではフルセットの末、惜しくもアメリカに敗れたが、「誰も成し遂げたことがない、素晴らしいこと」と富田が語るように、積み上げてきたものが着実に成果につながっている自信をチームにもたらした。ティリ監督もVNL終了後、新華社通信のインタビュー(※1)で「少しの運もあった」と、ほほ笑みながら、多くの選手を入れ替え、ベンチから入った選手が勝利に貢献したことを「チームワーク」の大きな成功として挙げている。
ベンチから途中出場してチームに貢献した富田、大塚らの言葉もそれを裏付ける。VNL準々決勝の中国戦では主役級の活躍を見せた富田だが、監督の要望を受け、サーブレシーブを安定させて、守備からチームを落ち着かせたことで、自身の攻撃にもリズムが生まれたという。「パスがよければ攻撃もよくなる。途中で入るからには、アグレッシブにやるしかない」と、笑顔で振り返る。「起用の意図や、交代で入る選手に何を求めるのか。練習時の要望など、監督とはよく話ができている」という富田。「先輩後輩関係なく、何でも話せる仲間がいて、監督もどっしりと構えている。家族のようなチームになってきた」と、2年目の変化を語った。
毎セット呼んでもらえる選手に
チームの成熟を大塚は次のように語る。
「交代のメンバーが入ってもクオリティーが変わらないのは、チームとしてやりたいバレーがはっきりしているから。みんな、機械のように活躍するじゃないですか。富田さんも宮浦さんも」
大塚自身、本来はコートに長く入ってリズムをつくるタイプだ。高さやパワーで圧倒する選手ではないと自覚し、「1本のサーブで結果を出す」ことは、決して得意ではなかったという。それでもVNLを戦うなかで、一つの解を見つけた。
「エースを取れるサーブではなくても、しっかり相手の嫌なところに打って、崩して。自分はディフェンスもできるし、チームの士気を上げることもできる」
その総合力でブレイクポイントを取れることが、確かな手応えとして積み上がった。
練習ではティリ監督から名指しされるシーンもあったが、「僕とラリーが、いつも言われるんですよ(笑) 大学生のころから一緒にやらせてもらっていたので」と笑う大塚。「毎日とても充実した練習ができている。誰も調整と思ってやっていない。チームとして、ここからもう一つ強くなろうとしてやっている」と、その表情は明るい。
宮浦、慶帆のサーブが走る!
合宿最終日。公開練習として行われた紅白戦には、コンディション調整の小野寺に代わり、高橋慶帆が登場。ファンにはうれしいサプライズとなった。最初のチーム分けは、河東、ラリー、富田、宮浦、西本、大塚、リベロ小川と、深津、山内、髙橋(藍)、西田、甲斐、高橋(慶)、リベロ山本。セットのたびに選手をシャッフルして、15点マッチを5セット実施した。高橋(慶)はミドルブロッカーのポジションでサーバーとして入っていたが、後半はスパイカーとしてもゲームに参加。攻撃面でキレのよさを発揮していた。
ゲームでは、攻めるサーブが光った。その分ミスも多く出たが、攻める姿勢は最後まで変わらなかった。髙橋(藍)、西田がビッグサーバーとしての存在感を示すなか、宮浦と高橋(慶)も圧巻のサーブで、何本もエースを奪った。富田、大塚、甲斐のアウトサイド陣もブロックにアタックに躍動。地元の声援を受けた河東は安定したトスワークを見せ、ディグで何度もボールをつないだ。
ディフェンスでは2枚ブロックをそろえ、攻撃では意図をもってそれを打ち抜く。それは、この合宿で繰り返し練習してきたシーンでもあった。2枚ブロックを想定し、ミドルブロッカーとアウトサイドヒッター、ミドルブロッカーとオポジットによるコンビ。セッターを替えてそれを何度も繰り返す。練習で磨いたプレーを、ゲームの中でどう機能させるか。最終日の紅白戦では、その「型」が随所に現れていた。疲労の色もあったかもしれない。だが笑顔を絶やさず、最後のジュースまで粘り強く戦う姿を、観客の眼に焼き付けた。
(ゲーム結果:14-16、11-15、15-13、15-7、18-16)
チームが鹿児島で磨いたもの
間もなく迎えるアジア選手権。ティリ監督の言うとおり「タフ、タフ、タフ」なトーナメントとなるだろう。強豪国を相手に、どう戦うのか。日本代表には常につきまとう問いがある。ティリ監督が「もし日本に高さがあれば、もっと簡単だったかもしれない。だがそれは変えられない。だから解決策を見つけなければならない」と語るように(※1)、チーム全員でその解を導き、勝利を手繰り寄せるために、多くをかけてきた。
大塚は言う。「簡単に1点は取れない。相手のミスを待つわけにもいけない。その1点を取るためには、自分たちは身長が低く、体格でも負けているけど、だからこそやっぱり、ボールを触っていない人も含めて全員がハードワークしないと勝っていけない。そこを忘れずに、目の前の1点をしっかり全員で取りにいくこと。その積み重ねしかない」のだと。
アグレッシブに、精密に。サーブで攻め、ブロックに跳び、拾い、つなぐ。スタッツには表れないところでも、一つ一つのプレーの精度を高めて、「この1点」を取るための解を磨き続ける。
取材:泊 亜希子
※1 GLOBALink Interview:
“Japan coach Tillie on how Asian men’s volleyball can challenge world’s best.”
Xinhua Global Service
https://english.news.cn/20260803/9beb3f029b444576963479847e824223/c.html
■2026男子アジア選手権の組み合わせが決定 日本はオーストラリア、バーレーン、オマーンと同組
