今年8月17日〜21日に長崎を舞台に行われた「第55回全日本中学校バレーボール選手権大会」(全中)で、自身が持つ大会連覇を6に伸ばした女子の金蘭会中(大阪)。それから約1ヵ月後、チームを通算9度の日本一に導いた佐藤芳子監督は目を輝かせながら口にした。
「最近ね、ビーチバレーボールのことを考えるとワクワクするんです」
そのまなざしは、例えるなら新しいおもちゃを前にした子どものようである。
実は全中を終えてまもなく、9月14日に金蘭会中は活動の一環としてビーチバレーボールの大会を催したそう。指導者としても、チームとしても、初めての取り組みだった。「それまで興味を持つきっかけがなかったですし、まるで知らない世界でした」と振り返る佐藤監督だが、ではなぜ突如ビーチバレーボールに関心を持ったのか。それは全中を終えたのち、大阪で開催されていた「ビーチバレージャパンレディース JVA第36回全日本ビーチバレーボール選手権大会」に足を運んだことが理由にあった。
その大会最終日の8月24日、OGである秋重若菜(トヨタ自動車ビーチバレーボール部)を応援しにいったところ、その準決勝では国内きっての実力派ペアである松本恋/穏(ともにフリー)組と対戦していた。
「秋重のプレー姿、かっこよかったですよ。それに彼女はこの春に大学を卒業してからビーチバレーボールを始めたので。競技歴は短いですから、ここからどう伸びていくんだろうかと思うと楽しみになりましたね」
インドアからプレーの舞台を砂の上に移した教え子の姿を温かく見守っていた佐藤監督。と同時に、対戦相手に目を奪われた。
「松本恋/穏組のうまさにしびれたんです。見るのが初めてで想像でしかないのですが、砂の上でボールのコントロールが難しいなかでも、パスもトスもぴたりと収まっていた。それに相手の不意をつくような場面もあって、『そんな点の取り方があるんや!!』と驚きました」
関西人よろしく、ごっついのがおるやん…、と心さえも奪われた佐藤監督は大会後、ペアの一人である松本穏へツーショット撮影を願い出ている。
「ファンです、と伝えました(笑)」
ただし、芽生えたのはミーハーな気持ちだけではなかった。そこは、これまで飽くなき向上心とアイディアで中学生たちに最上の景色を見せてきた指導者である。
「ビーチバレーボールをやらせたら、子どもたちはもっともっとうまくなれるやん、って思ったんですよ」
そんな経緯からチーム内でビーチバレーボール大会を開催、さらには秋重による後輩たちへ向けたリモートでのビーチバレーボールの講習会の場を実現させたのである。
今はまだまだ興味が湧いたばかり。中学生世代でいえば2人制も4人制も全国大会があり、そうした情報に触れている段階だ。「どちらでいくか、それもインドアと並行してですから、まだまだ想像もつかないですが、やるからには全国大会への出場を目標にしたいです」と佐藤監督は目をぎらつかせる。そうして、しみじみと言うのだ。「こうしてめぐり合えたのも、秋重のようにOGたちがいろんな道を切り開いてくれているからですよね」と。
一方で、佐藤監督の胸に生まれた火種をさらに燃え上がらせた松本恋/穏組は結果的に「ビーチバレージャパンレディース」を制し、さらに9月5日〜7日の「ジャパンビーチバレーボールツアー2025 第7戦グランドスラム エスコンフィールドHOKKAIDO大会」でも優勝を飾っている。その際のコートインタビューで2人は「私たちはファンブースにも人が集まらなくて…」と嘆き節だったが、決してそんなことはない。
砂の上で披露する日本トップレベルのパフォーマンスによって、競技そのものに引き込まれた人がここにいる。それは確かだ。
(文・写真/坂口功将)
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