「加油! 加油!(ジャーヨウ! ジャーヨウ!)」
現地の言葉で「頑張れ!」を意味する声援が、台北市立天母大学体育館を揺らした。東京グレートベアーズのスパイクが決まると、日本チームの応援Tシャツを着た台湾人ファンが歓声を上げる。コートでは台鋼スカイホークスの選手たちが拳を突き上げ、観客がそれに応える。スポーツDJのリズミカルな呼びかけと、ハリセンの音。国境を越えて、バレーボールの熱が渦巻いていた。
ここは、9月19日(金)〜21日(日)に台北(台湾)で開催された「TPVL Warm-up Match」の会場だ。台湾初の男子プロバレーボールリーグ「TPVL(Taiwan Professional Volleyball League)」の開幕を控えたプレシーズンマッチに、SVリーグから東京GBとヴォレアス北海道が参加。台北イーストパワー、台中ウィンストリーク、桃園レオパーズ、台鋼スカイホークスのTPVL4チームとともに、3日間にわたり全7試合の熱戦を繰り広げた。会場を埋めた観客たちの熱狂は、アジアのバレーボールが新しい時代へ動き出した瞬間を感じさせた。
運営は発展途上ながらも
ファンの熱量を感じる台湾の男子プロリーグ
2日目の土曜日、会場は7割近くが埋まり、入場口には長蛇の列ができていた。初日は平日開催で空席も目立ったが、週末は様相が一変。体育館前に設置された各チームのボードには、たくさんの熱い応援メッセージがつづられていた。
今回のイベントで最初に目を引いたのは、男性客の多さだった。日本のSVリーグ男子の試合会場は、女性ファンが圧倒的多数を占める。だが、台北の体育館の男女比は、ほぼ半々か、やや女性が多い程度。若いカップル、家族連れ、若い男性のグループなど、多様な人たちがバレーボールを楽しみに訪れていた。
会場の設営や照明演出は、日本のSVリーグとほぼ同じ仕様だ。入場口ではハリセンが配布され、「モンスターブロック!」「エース!」といった国際大会でおなじみのコールを、スポーツDJが観客に呼びかける。応援のスタイルも日本とほぼ同じ。
選手入場の際に、推しの選手を間近で見ようと入場口にファンが詰めかけるなど、運営や安全面では発展途上の部分も。しかし、その自由さと熱量こそが「いよいよプロリーグができる」という「始まり」の空気を象徴しているようにも感じられた。
日本チームへの熱い声援、柳田将洋や張育陞に大歓声
続いて印象的だったのは、日本チームを応援するファンの多さだ。初日の最終戦、東京GB対ヴォレアス北海道は、前の2試合がフルセットだった影響で21時前にようやく開始。試合終了は23時を過ぎたが、会場は最後まで熱気に包まれていた。台湾チームどうしの対戦時以上の歓声が上がることも珍しくない。日本男子バレーの人気を、肌で感じた瞬間だった。
会場では、東京GBの応援Tシャツを着て、柳田将洋や大竹壱青らの名前が入った手作りボードを掲げる台湾ファンの姿が目立つ。「柳田選手のファンです。プレーも顔もかっこいい!」。そう笑顔で語るのは、バレーボールを見始めたばかりだという男女ペアだ。
一方、ヴォレアスの試合では台湾出身の張育陞(チャン・ユーシェン)に大歓声が上がった。「張選手がいるから、ヴォレアス北海道を応援しているの」と語る台湾人ファンもいた。
張育陞という“入り口“があるだけでなく、ヴォレアスはファンづくりの巧みさで存在感を示していた。SNSフォロワーに応援Tシャツを配布し、会場の一角をチームカラーに染め上げた。井上仁がベンチ横からアリーナ席のファンを盛り上げ、試合後は観客をバックに記念撮影。積極的に台湾ファンを巻き込む戦略が、笑顔で会場をあとにする人々の表情に結実していた。
東京GB・戸嵜「SVリーグ開幕を目前にいい実戦練習ができた」
東京GBの呼びかけで日本チームの参加が決まった本イベント。3日目の試合でゲームキャプテンを務めた戸嵜嵩大に、東京GBのチームとして初の海外遠征についての感想を聞いた。
「興行としてだけでなく、SVリーグ開幕1ヵ月前というタイミングで、さまざまなパターンを試せる貴重な機会になった。どの選手が出てもいいパフォーマンスが出せる土台ができてきていると感じる」
戸嵜自身、12月からタイリーグのダイアモンドフード VCへレンタル移籍が決まっている。台湾行きの直前にタイで行われたイベントに参加してきたこともあり、こう続けた。
「タイから戻ったばかりで、すぐにみんなと合わせられるか心配だったが、自分も含めメンバーみんなが対応力を身につけているのを感じられた。どの選手が出ても、いいパフォーマンスが出せるチームになってきていると感じた。この土台を強化し、外国籍選手が入ってもすぐに適応できる環境をつくり上げていければいいと思う」
TPVLが先行開幕、SVリーグへバトンを渡す
本イベントの翌週、TPVLはSVリーグより一足早く開幕を迎えた。まだ4チームであり、大きく盛り上がっていくには時間がかかるかもしれない。台湾のスポーツでは、野球が最も人気があり、バスケットボールがそれに続く。バレーボールはまだそこまでの市民権を得ているとは言い難いが、台湾のファンの間でも漫画『ハイキュー!!』の人気は高く、この作品をきっかけにバレーを見るようになった人も多いという。今回のプロリーグ発足に対して、台湾のバレーボールファンたちからは「プロリーグができてうれしい。選手の待遇がよくなり、世界で戦えるようになってほしい」との声も聞かれた。
台湾の会場で響き渡った「加油!」の声は、アジアのバレーボールが動き出した合図のようだった。国を越えて熱が伝わり、今、日本のSVリーグへとバトンが渡される。10月24日(金)、大阪ブルテオンvs.サントリーサンバーズ大阪戦を皮切りに男子の2025–26シーズンが開幕する。アジアからの追い風に乗り、日本でもさらなる高みを目指す戦いが始まる。
取材:フジサキ ヒロ
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