「ここからは一緒に、試合へ」 東京グレートベアーズのウォーミングアップに表れた変化の兆し
- SV男子
- 2026.10.22
新指揮官が変えた試合前の光景
東京グレートベアーズ(以下、東京GB)のウォーミングアップが変わった。
SVリーグには、試合前に全員で同じウォーミングアップを行うチームもある。一方、昨シーズンまでの東京GBは、選手一人一人に任せるかたちだった。それぞれが自分の体に合ったウォーミングアップを行い、そのまま公式練習に入っていた。しかし今シーズンは、その様子が変わっている。
9月29日と30日に国立代々木競技場第二体育館(東京)で行われた、ジェイテクトSTINGS愛知とのプレシーズンマッチでも、その光景が見られた。選手たちはまず、それぞれのメニューで体をほぐしていく。一定の時間が過ぎると、スタッフが前に立った。そのスタッフの号令のもと、全員が同じ動きを始める。エンドラインからネットまで腕を大きく回しながら、軽く跳ねて移動する。もも上げをしながら、横一列に並んでコートを渡っていく。ときおり笑顔ものぞく。
今シーズンから指揮を執るマウリシオ・パエス監督は、このウォーミングアップにどんな狙いを込めているのか。10月7日に行われた東京GBの開幕記者会見後の取材で聞いた。
マウリシオ監督は、まず個々の時間を残している理由を説明した。
「もちろん、選手には個別の時間が必要です。たとえば(バルトシュ・)クレクと川野(琢磨)では、年齢が大きく違う。必要とするものがそれぞれで違ってきます」
そのうえで、こう続けた。
「ただ、私たちがチームであることを忘れてはいけない。チームは、物事をともに行う必要があります。試合に向けてスピリットを整えるのは大切なこと。だから『ここまではあなたのための時間。でも、ここからは一緒に試合へ臨もう』というのも目的の一つです」
個々に必要な準備は尊重しつつ、最後は全員で一つになって試合へと向かう。アップの構成そのものに、指揮官のチームへの考え方が表れている。
チェコや、フランス、イタリアの代表でアシスタントコーチなどを務めた経歴のある、マウリシオ・パエス監督 (©︎ TOKYO GREAT BEARS)
「魔法のようにはいかない」
毎日積み上げる関係性の質
「今季のバレースタイルについて詳しく教えてほしい」と問われたマウリシオ監督は、まず選手一人一人に必要なスキルを教えるところから始まると述べた。
「効果的で一貫した、安定したチームをつくる必要があります。そのうえで、速いプレーやバリエーションを使ったプレーも目指したい。ただ、そのためには選手に必要なスキルを教えなければなりません。速いバレーをしたいなら、いいパスが必要です。いいパスがあれば、セッターにも技術が求められる。だから、すべてに取り組んでいます。選手たちに、成功する機会をつくるために」
では、チームをどのように成長させていくか。マウリシオ監督は、男子バレーでは安定したサイドアウトが重要だと語る。あわせて、選手が体の強さを実感できる状態をつくることにも力を入れているという。そのために、ウエイトトレーニングとボール練習の組み合わせを慎重に考えている。
「いいコンディションでいることが、私たちにとってほんとうに大切です」
そして、指揮官がスキルと同じくらい力を注いでいるのが、チーム内の関係づくりだ。
「選手たちには自信を持って、強くなってほしい。そして、練習に来るのが楽しいと思ってほしい。私たちは練習で長い時間を過ごし、遠征も、昼食も、ウエイトトレーニングも一緒にします。だから、その時間は質の高いものでなければなりません。この関係、この人と人とのつながりの質を毎日積み上げていく必要があります。それが、困難なときにチームとして立ち向かう唯一の方法だからです」
それは監督一人の仕事ではない、とも強調する。
「スタッフ、選手、みんなの仕事です。強い一体感をつくるためには、こうした時間をほんとうに大事にし、そのために努力しなければなりません。ほんとうの関係は毎日築くもの。魔法のようにはいきません。会ってすぐに『来たばかりだけど、いいやつだね』となるものではありません。本物の価値観に基づいていなければならないのです。心から出てくるものが、私たちにとってとても大切になる。それがあれば、どんなことにもともに立ち向かえます」
その先に、指揮官が見据えるものがある。
「選手たちを奮い立たせ、最高のバレーをしてもらいたい。そして最高の姿を見せてほしい。それが、このチームでの私のほんとうの目標です」
全員でそろって行うウォーミングアップも、そうした日々の積み重ねの一つなのだ。
開幕戦にて。ウォーミングアップの様子
「一歩右、一歩左が致命傷に」
細部を突き詰める指揮官
選手たちは、新指揮官の下での変化をどう感じているのか。古賀太一郎主将は、昨シーズンの課題をこう振り返る。
「タフな試合を勝ちきれなかったり、ラリーを取りきれなかったり。スパイクを決める、決められないもそうですが、意外と簡単なシチュエーションに隙があったんです。たとえばブロックフォローであったり、チャンスボールの返球の質であったり。一本の難しいボールを決めるとか、2枚、3枚ブロックを打ちきるとかではなくて、そういった当たり前の積み重ねでしか点数は重なっていかない。そこを昨季はおろそかにしていたわけではありませんが、振り返ると詰めきれなかった部分があったと思います」
その「簡単なプレー」に、マウリシオ監督は細かくこだわる。
「監督は、練習のときも口酸っぱく言ってきます。一歩右、一歩左、『それが致命傷になる』『パスが短い』といったこともすごく要求してくる。でもその積み重ねが、最後の1点を取れるか取れないかにつながってくるので。当たり前のことを当たり前にできるチーム、簡単なプレーほど確実に、というのが大事になってくると思います」
「選手のために、もゼロではないけれど」
柳田が若手に声をかける理由
副キャプテンの柳田将洋は、昨シーズンに欠けていたものとして「自信を持ってプレーすること」を挙げた。
「昨シーズンはそこが欠けてしまって、チームとしてもう一歩ステップを上がりきれなかった。自分たちがやってきたことにまず自信を持つ、それによって(プレーの)精度や思いきりのよさが出てくると思うので。マウリシオ監督は、自信や自分たちがプレーすることへの誇りを持ってやるということを常に言ってくれるので、僕自身もそこをしっかりと自覚しながらプレーしたいと思っています」
指揮官とのやり取りについては、こう話す。
「キャリアのある方なので、僕のやりたいプレーやシチュエーションなどによって『こういうプレーがいいと思うのですが』『この状況ではどう思いますか?』という話をしても、毎回受け答えしてくれるので質問しやすいですね。答えもある程度しっかり提示してくれますが、ガチガチに固めるわけではなく、流動性やこちらの主体性も重視してくれる。信頼関係を築きながらやりやすい監督だと感じています」
柳田自身も、若手に声をかける姿がよく見られる。そこに込めた思いを聞くと、少し考えてから答えた。
「選手のために、というのももちろんゼロではありませんが、一つはチームのため。強くなるためにその選手に成長してもらって、チームに還元してもらうのがゴールですから。自分のアドバイスがつながりつながって、チームのためになっている。そういったイメージでコミュニケーションをとっています」
監督が「みんなの仕事」と語った関係づくりは、選手の側でもすでに動き始めている。
「来てくれた人にプレーで魅せて、次の試合も来てもらう、ということがいちばん大事な仕事だと思っている」と語る柳田将洋 (©︎ TOKYO GREAT BEARS)
「負ける試合もある。問題ない」
指揮官が求める向上心
全員がそろって練習できたのは、記者会見の前日が初めてだったという。それでもマウリシオ監督は、選手たちへの信頼を口にする。
「この選手たちを信じています。クオリティーは高い。でも、まだ何も成し遂げていません。最後の1点まで戦わなければならない」
そのうえで、こう続けた。
「毎日、少しでもよくなろうとする向上心を持ち続けてほしい。負ける試合もあるでしょう。問題ありません。そこからさらに強くなって戻ってくればいい。今シーズンの練習では、すでにとてもいい瞬間があります」
試合前、全員で同じリズムを刻むウォーミングアップ。その光景は、新しい東京GBが歩み始めた道のりを映しているのかもしれない。
外国籍の選手や日本代表に参加していた⑪後藤陸翔らが合流し、ようやく全員がそろった (©︎ TOKYO GREAT BEARS)
取材/フジサキヒロ
■サントリーサンバーズ大阪がホームの箕面市で2026-27シーズン出陣式
■ウルフドッグス名古屋が伝統の装いで2026-27シーズンにむけて新体制を発表。今季のキャプテンは市川健太が就任


























