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「勇住邁進〜春高の舞台、臆することなく一心に突き進め!!〜」敬愛学園高校(後編)

互いを思いやって行っていた

自主トレーニングの成果がしっかり現れていく

敬愛学園高の授業・部活がスタートできたのは6月のこと。

選手たちの自主性を促した自粛期間のトレーニングの成果で、再開時は「基礎体力が上がっていて、予想以上に体の仕上がりが良かったですね」と上原監督は回想する。そんな中、考えていたことが“3年生チーム”を主体とすること。収束しない新型コロナウイルス、大会がなくなっていく状況を鑑みて、7月それを通達する。「それもモチベーションを保たせるための一つの手段だったと思います。今回は腹を括って3年生主体でやるぞと。1・2年生は、前向きに言えば、新チームで早く始動できるし、3年生と常に試合をすることで成長できると伝えました」。

部活再開から約1ヵ月後、上原監督は3年生主体で戦うことを決断した

自主トレで身体能力がアップしていたが、バレーボールはチームスポーツ。それだけでうまく行くものでもない。問題となったのが、失われていた“ゲーム勘”だった。しかし、ここで環境に恵まれることになる。敬愛学園高は、同じ敷地内に敬愛大学があり、隣で同バレー部が常に練習をしていた。「本来なら、合宿を重ねていくことで、チーム力を上げていくのが敬愛学園のスタイルなのですが、今年は合宿はやるつもりはない。そこで大学のバレー部、福田(均志)先生(元國學院大栃木高監督、現敬愛大監督)に助けていただいた。何十セットと練習試合をやらせていただくことで、大学生とやっても勝負できるレベルにまでなりました」。9月に入るとチーム力は予想以上のものとなり、強豪大学とも競ることができるレベルになったという。

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春高予選前のトラブルも

深めたチームの絆で補っていった

しかし“好事魔多し”。春高予選直前に要である鈴木杏梨キャプテンが足の甲を疲労骨折してしまった。

 「いつもなら、夏過ぎくらいに出るようなケガが、遅れて11月に出てきた。それは予想もしないものでした」と上原監督。幸いにも、鈴木キャプテンが負った疲労骨折は軽度のもので、大会まで安静にすることで8割程度の状態ながら春高予選には間に合ったという。

チームの要、鈴木キャプテンが春高予選直前にケガ。幸い、大事には至らなかった

一方でケガの功名というべきことも起こる。3年生チームで戦うことを決断したこともあり、上原監督は、主力の一人だった2年生・梅川愛邑理に痛めていた手の本格治療を進言する。監督曰く、それで発奮したのが同じポジションの3年生・大木春香だった。

故障から本来の力を出せずにいた大木が、春高予選に合わせて実力を発揮するように

「もちろん、みんなが頑張ったし、永井(知佳)なんかは記事にしてもらうほど活躍した。そんな中で、大木もグッと伸びた。2年生の時に重いねんざをして以来、本来の力を出せないでいたのですが、ここにきて急成長してくれた。レギュラーではない3年生も、練習しかり、相手の分析しかり、活躍してくれた。その結果、春高予選では3年生12人全員を使いました。『やっぱり3年生じゃないと勝てないと言いたいんだ(だから頑張れ)』と選手たちに伝えていたのですが、よくやってくれましたね」(上原監督)。

様々なことを乗り越えてチームの絆が深まった。それを見せられた春高予選だった

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一言で言えば「チームの調和」。だが、みんなで同じベクトルを持つというのは、そう簡単なことではない。12人と多い3年生の絆が一気に深まる出来事が夏休み前の7月にあった。

 

「3年生が向いている方向がバラバラとなり、先生に練習に出てもらえない時期がありました。それは本当に苦しい時間で、そんな中で、3年生みんなで集まって一人一人がどう思っているのかを正直に本心を泣きながら話をして、『12人でこれからも頑張っていかなければいけないよね』となったのです。その決意を伝えると、先生からは『今みたいな状態では(入ったばかりの)1年生を支えていけない。まとまらないとダメだぞ』と言っていただいて。あの出来事は大きかった。ここからガラッとチームが変わりました」(鈴木)

そのチームの変化について、釜井コーチはこう語っている。「12人と人数も多いし、個性が豊かなので内部分裂のような時期もあったけど、やはり真のチームワークがなければならない。普通にやっていたら、なぁなぁになってしまうところも出る。だけど、リベロの工藤みたいに、そこで『なんで?』と口に出してくれる存在もいて、それが起爆剤になる。それは最後のところで勝敗を分けることにもなります」。

 

果たして3年生チームとして選んだ春高予選で勝ち切り、千葉県代表となった敬愛学園高。

さて、冒頭の件を覚えているだろうか? 優勝を決めたのに、なぜ感情を爆発させなかったのか?

鈴木キャプテンが理由を明かしてくれた。

「もちろん喜んではいました。ただ、あまり喜びすぎるのは相手に失礼だなと。相手があっての大会ですので…対戦チームにも感謝をする。それが私たちが心掛けていたことなのです」

ややもすると勝利至上主義に偏りがちな高校スポーツ。しかし、“勝つことだけがすベて”ではない。部活の中で、人間としても成長していく。敬愛学園高の選手たちは、困難な時間を過ごす中で、メンタルをも成長させていたようだ。

春高予選で優勝を決めた直後。喜びを表現する一方で、敗れたチームへの敬意も忘れなかった

「自信作。良いチームになってきました」

上原監督自慢のチームで目指すは日本一の座

いつもと違う年だからこそ、結束力が強くなった部分もある。

上原監督は、今年のチームを「自信作。良いチームになってきました」と笑顔で語る。

「一言で言えば阿吽(あうん)ですね。長くチームを組んでいるからオプションが多くて、対応力がある。それは2年生が入った時に、違和感を感じるほどです。例えるならウチは零細企業、だけど一流企業にも負けないくらい良くなってきました。(笑) 春高は特有の雰囲気がある高校生にとって憧れの舞台。そこで戦う3年生の背中を1、2年生に見せてほしい。よくあのコートには魔物がいるなんて言うけれど、神様もいる。今年はどのチームも場数が足りない。だからこそ未知数、チャンスがあります」

上原監督をして「自信作」と言わしめる今年のチーム。その力を存分に発揮してほしい

取材をした鈴木キャプテン、大木、齊木に加え、小栗 優、永井智佳、芝﨑くるみ、袋 日星、工藤唯夢、櫻井聖綾、黒田あかり、山﨑瑠奈、杉本真唯、3年生12名がチームを引っ張る

もちろん、選手たちが春高に賭ける思いもひとしおだ。

鈴木キャプテンは、春高への抱負について「チームとしての最後の大会なので、3年生がしっかり意地を見せたい。まだ県大会しか経験していない1、2年生に、全国大会でのプレーでしっかり見せることが、自分たちの役目でもあると思っています。まずは自分たちのプレーを焦らずやること。コンビバレーをしっかり組んで、日本一を目指します」と語ってくれた。

チームのキーマンとも言える大木は「悔しい思いをしてきたことのほうが多かったので、最後の大会では悔いの残らないように戦いたいです。それと春高で戦えるのは、3年間支えてくれた方がいるから。ずっと見守ってくれた先生や家族に感謝しつつ、日本一を目指して戦いたいと思います」とコメント。齊木まつ莉は「マネージャー業も継続しつつ、戦うチームのデータを取って勝ちにつながるようにやっていきたいです。そしてプレー面でも、ユニフォームを着させてもらっているので、努力をして、今まで支えてくださった方々に感謝を伝えられるようなプレーができるように、しっかり準備をしていきたいと思います」と語っている。

左から齊木、鈴木、大木。どんな性格か聞くと齊木に関しては「面倒見が良くて、初対面でも大丈夫」、鈴木に関しては「メリハリがある。周りをよく見ている」、大木に関しては「世話好きで流行に敏感」とのこと

目標とする「日本一」。そのためにも、大会までにできる限りの努力をしてチーム力を上げていく。だが、選手たちが戦うのは、自分たちや相手チームばかりではない。新型コロナウイルスという見えない脅威とも戦っている。

「できれば、全チームが無事に参加すること。すべてのチームが、しっかり勝負ができることを願いたい。そのためにも、感染症対策でもできる限りのことをやりたいと思います」と上原監督。

今回の春高では、無観客であることはもちろん、会場入りできるのは18選手のみ。試合後は即座に退場しなければならない。大会として最大限の対策を練ったからこそだが、仲間とともに代表権を勝ち取ったのに、会場にも行かれない選手たちがいることも忘れてはならない。だからこそ、監督や選手は“1、2年生に、全国大会でのプレーでしっかり見せたい”と思っているのだ。

上原監督(写真左端)、釜井コーチ(写真右下)を中心に固い絆で結ばれているチーム

チームのモットーは「勇住邁進」(臆することなく一心に突き進む)。

敬愛学園高は、光り輝くオレンジコートでその姿を見せてくれるはずだ。


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