カレッジスポーツの社会的価値向上へスポーツブランディングの試み~日体大バレー&バスケ部より
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- 2024.09.13
第59回日筑バスケットボール定期戦(2024.4.21)より
「するスポーツ」と「見るスポーツ」
――ビジネスとして成立するなど、カレッジのアメリカンスポーツが盛り上がっている理由はどうお考えでしょうか?
藤田 バスケットはその町にその大学ありで、クラブも必然的に愛されている。商売、ビジネスとは少し違って、やはり町づくりとして一つ大学があると明るくなりますから。
根本 チームが地域に根付いているのはすごい。でも日本はね。
藤田 そうではない(笑)
根本 そのとおり。やはりアメリカは、スタジアムも端から見せるためにできています。でも日本は「学校体育」ですから。日体大も常設のギャラリー(観覧席)はなく、せり出し式なんです。少しでも付けておけば、地域の住民に見てもらうような仕掛けもできたのですが。
長年お付き合いがあるハワイ大では、とにかくバスケットの試合のときは超満員で、バレーでも結構入るんです。年間シートみたいなものが販売されており、(プロと)同じ考えです。毎週末、楽しみに家族でそこに来る。我々が行ったときのようなエキシビションマッチでも地域の人が見に来る文化があり、夜はあそこで食事しながら試合を見て…。
藤田 日本の高校や大学は昼間に試合をやっていますよね。アメリカは夕方、夜です。そもそも見せるもの、見るものであり、応援するものでもあるから、夜のほうがいい。お休みの日は家族で遊びに行って、夕方から地元の大学のチームを応援する。ぜんぜん違います。もちろんスポーツの発展にはテレビが一番大きな要因だったという歴史はあります。日本でいう民放で大学バスケットを放送したことで、今も大きな放映権料がNCAAのバスケットのほうに入っていますし、バレーボールも同様です。
根本 バスケットもバレーも「するスポーツ」ですよね。野球やサッカーはサポーターが観戦するスポーツ、というイメージもあると思います。我々バスケットやバレー、「するスポーツ」側の人たちが、「見る」方にシフトチェンジする機会がどこかで出てくる感じもしますけど。日本のバレーは「する人口」がとても多い。ママさんバレーから子どもたちまで、週末は自分たちがやっているから、見にいくことがない。だけど日本代表の試合は集まって超満員になる。そこは見せ方なども大事なのでしょう。
藤田 違いはあるんだよね。
根本 そうなると、スポルディングのように本社がアメリカにあって、NBAを含め、いろんな国のスポーツに参画されているという部分もムーブメントを起こす上で力になる、という感じがしています。学生のバレーボールの大会では、会場にバナーを置くといったことすらあまりありませんが…。
――配信で、とても目立っていました(SPALDINGのバナー)
根本 あれはついたてがなかったので、置いただけです。
藤田 まだバレーボールってそのレベルなの?
根本 ええ。だから仕掛けているわけですし、バスケットも「学ぶべき存在」だと思っています。
藤田 カレッジバスケもほんとうにここ10年で、変えました。そう言えます。
根本 上のカテゴリーもですよね。Bリーグを含めて。
藤田 そうですが、大学で変えるのがやはり大変。興行ではないですから。もちろんチケットの値段も上げたり、その値段に合う装飾やエンターテインメントを持ってきたりはしています。
根本 ほんとうはもっとやるべきですよね、カレッジ男子はファンが多いから。(観客が)入る可能性はあるんです、うまくやれば。
藤田 競技(試合)自体は1時間半ですが、アリーナに入ったときにやはり楽しい雰囲気が出るようにと、大学バスケットは今、そういうところをつくっています。去年は秋元康さんにお願いをして、インカレのハーフタイムショーでアイドルに踊ってもらいました。まだまだ発展していくと思います。
根本 今バレーボール部では、キッズの教室などを定期開催で積極的にやるようにしており、地域の人たちをできるだけ取り込みたいと思って仕掛けを始めています。最終的に僕は、特に女子バレーだと家族が来るようにしたいと思っていて。子どもたちからおじいちゃんおばあちゃんまでではないですが、そういう人たちが集ってくる場を目指したい。昔バレーボールをやっていたとか、子どもを連れて、とか。そんな雰囲気でバレーボールを盛り上げてみたいですね。
――今後、ホームゲーム運営などのビジョンやお考えがありますか?
根本 バレーボール部は定期戦がないんですよ。バスケット部は筑波大との定期戦があるので、我々も少しずつ準備しています。スポーツマネジメント学部の先生やゼミ生とタイアップして、エキシビションマッチでやってみよう、という企画があり、青山学院大に声をかけてイベントを計画しています。
リーグ戦は学連の運営ですから、それ自体を盛り上げていくのはハードルが高い。ある期間の中で試合数をこなそうと思うと、会場確保も含めて制約があるので、ホーム&アウェーに変えていく、なんてことはなかなか難しいんです。ですからそこは別として、スポルディングにバックスポンサーになっていただいての開催を考えています。
――最終的に目指すもの、実現したいところは?
藤田 ブランディング化を図りたい。仕掛けていきたい。もちろんスポーツを「見る」「支える」の部分も、ブランディングによって大きく変わると思います、例えば今、バスケット部はスポルディングのウェアを着て授業を受けていますが、みんなこのTシャツがほしいという。今後は物販なども考えていきますが、やはり「日体大」と名前が入ってしまうと部での物販は難しくなってくると思うので、NSSUを外して、このロゴだけにしてやってみようかなと考えています。
根本 企業の人だ(笑)
藤田 要は世の中で、例えばこのTシャツがイオンで売っているとか、そういったところまでブランディング化を進められれば。
――収益よりもまず、ブランディング。認知度をもっと上げていきたいと?
藤田 スポーツはブランド価値がある、チームはブランドなんだよ、ということです。全国1位だからすごいのではなくて。ブランドがすごい、と。そんなふうにもっていきたい。勝とうが負けようが、応援されるものは応援されるんです。それがブランドですから。
ただ大きなものを動かすには時間と労力がかかります。もちろん自分がそのポストに行けば何らかの発言権があるので、連盟でも協会でも上に登りたいと思ってやっていますが、まずは足元から。自分のチームを、スポルディングと一緒にブランディングしていく、それが僕の中では最優先です。
――今は何合目くらいでしょうか?
藤田 まだ3合目くらいですね。かたちにはなっていますが、半分にもいっていないんじゃないかな。
根本 僕はどちらかと言うと逆の発想で。何となく、気づいたらそうなっている、というのが結構好きなんです(笑)
やはりSNSの時代ですし、何となく「やっぱかっこいいよね」という声が浸透していく、みたいな。バレー界でのちょっと異端な感じで、何かやり始めたぞ、というところから、何となくそれが本流になっていく。そんな仕掛けをしていきたいと思っています。例えばそれを見てほかの大学がやってもおもしろいでしょうし、別の大学がどこかとタイアップしてもいい。とにかく今は先取りしていろんなことを仕掛けていく、とりあえずやってみる。そしてそれが何となく、ほかも同じようにやるような雰囲気につながればな、と思っています。まずは皮切りに、やはりスポルディングとだからできる何かがある、という感じはしています。
――そこはそれぞれ、ですね
藤田 でも日本のスポーツを変えなきゃいけない、と市区町村やいろいろな企業もやっていますが、大学は大学、しかもここはスポーツ、体育の大学なので、その部分は色濃く発信していきたい、というところは共通していると思う。
根本 そうですね。
藤田 我々には勇気がある。そして、それを支えてくれるスポルディングがあったと。いうとこです。
根本 いいこと言うね(笑) でもほんとうに、簡単に言うと日体大を出たバレーやバスケの先生が、日本中にバレーとバスケを教えたんですよ。だから我々が変われば、我々の教え子たちがまた変わって、世界が変わっていく。そんなイメージはあります。
あまり時間はないですが、コーチングや現場のあり方も含めて、スタイルから何から、すべてが。変えていくには俺らが頑張るしかない、という思いはあります。
――スタンダードをつくったのは自分たちで、変えるのも自分たちだ、と
根本 そうです。ニュースタンダードを、令和バージョンで。
藤田 それいいね、スタンダードを作ったのは日体大で。今を変えていくのも。
根本 リ・スタンダードです。そしてその根底にあるのは、バレーもバスケットもアメリカンスポーツだ、というところで。
バスケットは激しすぎるからバレーが生まれました。バレーはもともとレクリエーションスポーツだったので、私はもっとレクリエーショナルな雰囲気をつくりたい。今の男子日本代表を見てください。最高に楽しいですよね、サーカスみたいなこともやっていて。ああいうのがバレーボールのだいご味だと思います。そういった発想ができる頭の柔軟性を育てたい、と常に考えています。
学生が身に着けたいものを仕掛けたい
――アイテムとデザインについて、選手の反応はいかがですか?
藤田 みんな大好きで、いろんなバージョンや色をほしがっています。まずこれを根付かせつつ、年に1つ2つはおもしろいものをTシャツで作って、リーグ戦などで「今日はこれでいこう」と全員でそろえたりしています。
根本 スタートはバレーボールのユニフォームからで、試着からやっていますから。もう少しここをこう、というその型も実は、少し思い切ってアメリカンチックなデザインとスタイルにしたんですよ。意識して仕掛けていったところがあります。
卒業した学生たちも、次のチームで「スポルディングいいですよ」と宣伝しているぐらいです。プレーしている人たちは「これを着てみたい」とか、希望があるはずですよね。そういう発想でいろいろとできていますので、僕自身はおもしろいな、と感じながら一緒にやらせていただいています。
例えば、バレーではロンTの文化がなかったじゃないですか。そこでウチがロンTを推してやってみた。すると今では、広がっているんですよ。だから、知らず知らずにそうなっていくという(笑) バレーボール部員、いつの間にか気づいたらやっていた、という感じの仕掛けをしていきたいな。
あとパーカーも仕掛けたね。バレーにはパーカーの文化もなかったけど、今はみんなパーカー。あれも何となくウチから広がっていきました。次は何なのかを考えながら。
藤田 バスケットを見てください(笑)
根本 チノパンも、チノハーフもそうです。学生たちが着たがるんですよ。
やっぱりバレーはどこか、何かダサかった、失礼ですけど。僕も含めてです。それで学生たちには、着たいものを着させたいな、という思いがありました。はっきり言えばそこにメーカーは関係ありません。リクエストに応えてくれるところがスポルディングでしたので、お付き合いさせていただいているという感じです。
藤田 バスケットでもユニフォームのデザインはラフを上げていただいて、それをキャッチボールしたかな。僕も少しデザインをやるので、キャッチボールがしやすいのはいいですね。ふつう、メーカーさんとはなかなかないんです。
根本 難しいね。でも背中を押してもらった感はあるんですよね、スポルディングに。おこがましいですが、バレー界を変えたいという思いを。チャンスかな、と。
藤田 意外と、(根本監督は)ドンと前に行く方ではない。でもこのスポルディングの話にはパッと乗ったね。そして話を聞いていると、いろいろな高校も変わったと言う。成功したんだな、と感じました。
根本 何となく、裏側で仕掛けていく(笑) トップに上りたい、という方ではない(笑) 何か、あいつじゃね? やったの、っていう。
変えたいというのも、別に何かを批判をするわけではなくて「あ、こっちのほうがいいよね」というふうに、みんなでそういう感じにしていきたい。だからこそ選手に聞いたりもしつつ。それが非常にやりやすいのはありがたいことだと思います。
藤田 僕も学生と一緒にTシャツを作ったりもしています。ある程度ラフを作っていただいたらこっちでも進められるので、学生と作って、それを投げて。そこでアドバイスを受けたりしながらです。
根本 フットワークが軽いですね。それがいちばんいいと思います。だって時代は令和で、どんどん変わるわけじゃないですか。我々も情報をキャッチして、次は何をやろうか、ぽんぽんと進んでいく。昨年と同じものをやらなくてもいいし、ブラッシュアップしてこうしよう、でもいい。ほんとうにパートナーとしてありがたいと感じています。
藤田 我々も、カレッジスポーツの社会的価値を高めていけるように。
でも先ほども言ったように、隣のチームがどうなっているのかわからないというのは寂しいよね。大学で何とかできればいいのでしょうが、まずは自分たちが目立って。目立つのは悪いことではないので、ブランディングを進めて価値を築くのがいいかなと思います。
根本 やっているからには、学生たちもアイデンティティがほしいですよね。
藤田 でも、スポルディングの協力を得て我々の今やっていることには時間もかかる。
根本 僕らの世代でどうなるか、というのは感じますね。
藤田 僕も急ぎたいほうなので。力を持たないと。どんどんいろんなことに挑戦をしていく、というところで一緒に頑張っていきたいと思います。
根本 カレッジスポーツの地位向上と社会的価値を。そして、いつの間にか家族や地域の人がみんな見に来ちゃう、っていう(笑)
<最後に日本体育大学女子バレーボール部、シーズン後半戦へ向けて>
――6月の東日本インカレは優勝(連覇)。3位だった春季リーグの反省をどう生かされたのでしょうか?
根本 春は、好調の筑波大と最終戦で当たることがわかっていましたので、そこまで全勝でいって「どちらか勝ったほうが優勝」というゲームができればと思っていました。しかしその前に青山学院大にフルセットで敗れ、そこで糸が切れてしまって。最終戦を前に筑波大の優勝が決まってメンタリティーが低下し、最後は思いきり戦えなかった反省点がありました。
そこから東日本までの短い期間では、トランジション(切り返し)にフォーカスして練習を組み立てました。トータルディフェンスを成功させてブレイク(連続得点)を量産させようという目的で、そこは一つプラスだったと思います。そして毎年4年生が教育実習でいなくなるなか、今年は2人が残っていたのですが、今回も3年生以下のメンバーを中心としました。東日本では、4年生抜きで準々決勝まで勝ち上ったのがもう一つ大きかった部分です。大会自体は試合の連続でタイトだったのですが、4年生は準々決勝の2セット目からの出場だったので、疲れていませんでした。そこも含めたチーム力で戦えたと思います。
――最後に今後の展望をお聞かせください
根本 秋季リーグに向けては、やはり夏をどう過ごすか、だと思います(取材日は7月中旬)。得点能力の高い選手がいるわけではありませんので、基本的にはチーム力が大事。チームの構成を再度、綿密に検討し、秋季リーグでもう一度、揉まれる。そして、ここ最近は全日本インカレでうまくいっていませんので、コンディショニングの面も含めて、しっかりやっていこうと思います。