バレーボールの全国高校選抜女子は、9月2日(火)からタイで行われた海外遠征に参加し、7日(日)に帰国した。現地チームとの対戦だけでなく、キューバ代表との試合や、世界選手権の観戦など、例年以上に収穫の多い日々になった
高いブロックを惑わす
コート中央からの攻撃
堤政博監督(熊本信愛女学院高〔熊本〕)の言葉に偽りはなかった。充実したタイでの日々を終え、空港での解団式で選手たちに最後のメッセージを送る。
「私が海外に行って、今まででいちばんいろんな経験ができた遠征だったのではないかと思います」
今年の遠征先は例年と同じタイだったが、これまでとの違いは期間中に女子世界選手権が行われていたこと。現地リーグや高校生のチャンピオンだけでなく、同大会に出場したキューバ代表と戦う機会にも恵まれた。
身長183㎝のアウトサイドヒッター松本夏凛(札幌山の手高〔北海道〕)以外は170㎝台と、世界を相手にすれば小柄なメンバー。だが、丹山花椿(金蘭会高〔大阪〕3年)、窪田倖叶(八王子実践高〔東京〕3年)、姫子松奏音(大阪国際高〔2年〕)の3人のセッターが、コート中央を積極的に使った攻撃で相手の高いブロックを惑わせた。
金蘭会高と同じくセッターとオポジットの両方で出場した丹山は、「2人のトスはめっちゃ打ちやすかったです。(セッターとしては)高いブロックを相手にどうやったら決めていけるのかがわかりました」と語るように、持ち味を発揮。プロチームとは4セットを戦って五分、そしてキューバ代表には2戦2敗だったが、2試合目はセットを奪った。堤監督は、その戦いに目を細める。
「ほんとうに貴重すぎる経験です。(スパイクを)打つだけ、(ブロックで)止めるだけだったら、相手のほうがはるかに力は上なのかなと思っていました。でも、そういったチームに対しての日本らしさというか、どんな戦いをすればいいのかをこの年齢で経験できたことは、ものすごく大きかったと思います」
大きな刺激になった
世界選手権の観戦
堤監督が解団式で言った「いろんな経験」とは、コートの中だけではなかった。夕方までの試合を終え、9月3日に向かったのはホテルから徒歩圏内のフアマーク・インドアスタジアム。「チケットの値段を聞いたときに、4000円ぐらいだったので。これは行くしかないでしょう! って(笑)」(堤監督)と世界選手権の準々決勝、日本対オランダ戦を現地で見た。
ふだんは憧れの眼差しを向けられる高校のトップ選手たちが、逆の立場で前のめりにコートを見つめる。「みんな、大はしゃぎでした」と笑う平家爽渚(誠英高〔山口〕3年)も、観戦を楽しみにしていた一人だ。
「高校の先輩(北窓絢音)もいらっしゃるので、モチベーションを上げられました。ほんとうにすごいなと思いました」
海外の選手を相手にすれば、決して大きくはない身長172㎝のアウトサイドヒッター。それでも、自身とそれほど身長が変わらない石川真佑(174㎝)が、オランダの高いブロックに対して強く、引き出しの多いスパイクで得点を決めていた。「石川さんは同じポジションで、同じくらいの身長で。ほんとうにまねするところがいっぱいあって、自分もできそうなことがありました。レシーブもすごく上手だから、そういったところでもどんどん近づけていけたらと思います」。トップチームを目指すうえでの大きな希望になった。
先に2セットを奪われながらも、女子日本代表はフルセットの末に逆転勝利をあげた。まるでホームのような大歓声に包まれる会場の雰囲気も、現地ならではのもの。堤監督は「そういった環境で日本代表の人たちが戦っているとわかったと思うので、そこもほんとうによかったですね」とプレーだけでない収穫を口にした。
翌日の午前に行われたキューバ戦は、指揮官が「前日に盛り上がりすぎて、練習から若干疲れが見えました」と笑って振り返るが、トップチームの学びは早速コートに表れた。
「ただサイドだけ(で攻撃する)、という戦いになったら通用しない。攻撃する場所を変えてみたり、ミドルブロッカーの存在感が出るような戦い方をしなければ勝てないということは、試合を見て実感したようでした」
キャプテンの鈴木真優(静岡県富士見高〔静岡〕3年)、小島真佳(八王子実践高3年)らミドルブロッカーを中心とした攻撃にさらに磨きがかかった。
充実した日々を終え、解団式では、12人それぞれの活躍に合った賞と、現地の石鹸が贈られた。「あのサイズでレセプションもしっかりできるようになってきた。今後が楽しみな選手です」と語る堤監督をはじめ、スタッフから太鼓判を押された松本は、「大きく羽ばたいたで賞」に選出。笑顔を見せながら、力強く宣言した。
「まだまだ足りないところがいっぱいあるので、少しずつうまくなっていけるように頑張りたい。まずは春高を頑張って、シニアに入れるようにしたいです」
数年後、女子日本代表にとって一つの分岐点になるかもしれない。未来につながるタイでの日々だった。
文・写真/田中風太(編集部)
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