国内外のトップ選手が火花を散らすSVリーグ女子。各チームのメンバー争いも激化するなかで、東レ滋賀では結束美南、花岡千聡と2人の高卒ルーキーが開幕からコートに立っている。新星たちの今季に懸ける思いと、越谷章監督の期待とは
中央からの攻撃に磨きをかける
花岡のトスワーク
越谷章監督の表情を見るに、決してリップサービスではないだろう。1-3と逆転負けを喫した11月1日(土)の埼玉上尾戦。プロシードアリーナHIKONE(滋賀)をいっぱいに埋め尽くした、2926人の観客を沸かせたのが、開幕からコートに立ち続ける結束美南と花岡千聡だった。そのルーキーコンビについて、指揮官は力強く言った。
「2人ともほんとうに将来、代表を背負える選手かなと思えるので。少しでも今、いろんな経験を積みながら進んでくれればと思っています。現時点では非常に…、いやものすごく頑張っていると感じます」
日本代表デビューを飾り、今季は姫路からドイツのドレスナー SCにレンタル移籍中の秋本美空を筆頭に、才能豊かな選手がそろう2006年度生まれのルーキーたち。その中でも、長身セッターとして期待がかかるのが花岡だ。
金蘭会高(大阪)では1年生時からコートに立ち、3年生時には「U20女子アジア選手権大会」に出場。それまではどちらかといえばサイドへのトスを得意としていたが、自身初めてのアンダーエイジカテゴリー日本代表でのプレーで、バックアタックを絡めた攻撃に磨きをかけた。
チームは準優勝した一方で、自身の役割はセカンドセッター。今年8月の「2025女子U21世界選手権大会」の前には、「(U20女子)アジア選手権では海外の雰囲気に圧倒されて何もできなくて。世界の舞台に挑戦できると聞いたときに、もう一回そうなってしまうんじゃないかという不安もありました」と明かしたが、大会ではさらに進化したトスワークを見せた。
山口祐之監督からの「全部クイックを上げるぐらいのつもりでやりなさい」という助言を受け、相手にこれでもかと印象づけたのは中央からの攻撃。そこからサイドの攻撃、バックアタックとほんろうし、銀メダル獲得に大きく貢献した。ベストセッターに選ばれた自信は、SVリーグで戦う今も生きている。
「高校と違ってパワーも違うし、外国籍選手に高さで圧倒される部分もあります。でも、自分のよさはパイプ(攻撃)を使えて、真ん中からの選択肢があり続けるところ。そこはSVリーグに入っても通用しているというか、挑戦していこうという気持ちでやっています」
11月1日の埼玉上尾戦では、越谷監督が「相手が崩れてつないできたボールに慌ててしまいました」と振り返るように、第1セットはなかなかセッターの定位置にボールが返らない展開。持ち味を発揮できないままそのセットの途中で田代佳奈美と交替すると、ベンチでは中道瞳コーチからのアドバイスに熱心に耳を傾けた。そして、1-2と後がなくなった第4セットに再びコートへ。指揮官は「花岡自身がそこをコントロールしてセットを取れるようになってくると、自信がついてもっと伸びてくる」と長い目で成長を見守る。
打数はチームで1、2位
攻撃の幅が広がる結束
この世代のトップ選手たちは中学時代から全国に名を轟かせてきたなかで、結束は高校で花開いた選手。宙を舞うような対空時間の長いジャンプが魅力で、身長は173㎝ながら、最高到達点は300㎝をマーク。エースとしてどんな場面でもトスが集まり、2年生時、3年生時は習志野高(千葉)を春高に導いた。そのタフさはSVリーグに入っても変わらず。対角を組む深澤つぐみがベンチを外れた10月18日(対姫路)以降はトスが集まるようになり、常にチーム1、2位の打数。10月26日の岡山戦では27得点(73打数)と期待に応え、フルセットでの勝利に貢献している。
「これまでは強打、強打で真っ向勝負だった」と語る越谷監督は「それもありながら、うまくいなす状況をつくれてきていて。粗さがなくなってきています」とスパイカーとしての進化を認める。それは、結束自身も感じている部分だ。
「高校ではブロックの上から打って通用しましたが、この世界では高さがないので。その分ブロックアウトや相手が嫌がる賢いプレーぐらいでしか自分の生きる道はないと思います。試合を重ねて、もっと選択肢を増やせるようにしたいです。
でもやっぱり、自分の強みはジャンプ力。しっかり踏み込んで、高い位置で打つときは決まるので、助走をできるようにします!」
記者会見でそう力強く宣言すると、結束は質問した記者ではなく、隣に座る松岡芽生を人懐っこい笑顔で見つめた。試合前には5歳年上の松岡のおでこをぺちっとたたき、松岡から頬をつねられてお仕置きを受ける。そんな度胸満点な後輩の存在は、チームに好影響を与えているようだ。
「2人ともこういう場面では緊張したりするんですけど、チーム内ではおちゃらけているというか。容赦がないので(笑)
でも、若い子たちがそうやってグイグイきてくれるのは、すごくいい環境なんだろうなと、私が1年目のときも思っていました。その環境をつくれているのはうれしいし、遠慮なくドンときてくれるところもまあ、かわいいです(笑)」(松岡)
結束が「『練習中もいっぱい失敗していいから、その分思いっきりやって』と言ってもらえるので。ほんとうにやりやすいです」と語るように、挑戦しやすい環境でメキメキと力をつける。
「できることも、通用しないことも当然出てくると思いますが、そこを修正しながら。44試合あるので、1年目でいかに成長できるか、また通用する部分が増えることを楽しみに頑張ってやっていきたいです」(結束)
「1年目からコートに立たせてもらうことは当たり前ではありません。こういった経験ができているからこそ、1年目らしく先輩に頼るところは頼って、思いきりプレーして。成長できるシーズンにしたいです」(花岡)
チームは現在10位(2勝8敗)と下位に甘んじるが、まだ戦いは始まったばかり。喜びも、苦しみもすべてが成長の糧になる。
はなおか・ちさと
2006年6月13日生まれ/身長174㎝/金蘭会高出身/セッター
けっそく・みなみ
2007年1月16日生まれ/身長173㎝/習志野高出身/アウトサイドヒッター
文・写真/田中風太(編集部)
■SVリーグ女子 PFUが東レ滋賀に連勝 A山形と岡山はともに今季初勝利
■SVリーグ男子 東京GBが逆転勝利で連勝、ヴォレアス北海道はホームで連敗ストップ
■令和7年度天皇杯・皇后杯全日本選手権大会ファイナルラウンドの出場チームと組み合わせが決定
■U16女子日本代表 3位決定戦で中国に惜敗も世界選手権出場権を獲得
【図】連勝連敗がひと目で分かるSV女子結果一覧(11月9日終了時点)
