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春高バレー月バレ便り

藤村希光(北嵯峨高)「バレーボールは高校まで」春高を経験したエースの決断

  • 2021.12.31

得点が決まり、笑顔でハイタッチする藤村(右)

 

2022年1月5日(水)に開幕する第74回全日本高等学校バレーボール選手権大会(春の高校バレー)の出場は逃したものの、予選で全力を尽くした選手たちを紹介する「次の勝者たち」。府予選で準優勝に終わった北嵯峨(京都)の藤村希光キャプテンは、高校で競技を引退する。昨年度は2年生エースとしてチームを23年ぶりの春高に導いた注目選手が下した決断の理由とは

取材・撮影/田中風太

 

 

 ここで終わるつもりはない。だが、春高府予選決勝を戦う藤村希光の脳裏には、12年間のバレーボール人生が浮かんだ。「いい思いをたくさんさせてもらった分、しんどいこともたくさんありました。北嵯峨高に来ると決めるまでの9年間もいろいろあったな、って」。ストレート負けに終わってそう話すと、さらに続けた。「この最後の挑戦で、12年間のバレー人生は終わります」。藤村は2年生時にチームを23年ぶりの春高に導いたエースだっただけに、その言葉を聞いて驚いた。

 昨年度の同大会決勝では21連覇中の京都橘高に対し、フルセットで逆転勝ち。春高では、1回戦で岩美高(鳥取)に勝利し、2回戦は共栄学園高(東京)の高いブロックに果敢に攻めた。パワフルなスパイクで得点を決めると、弾ける笑顔でチームを鼓舞。敗戦後は「もっと大きなエースになりたいです」と語っていた。だが、そんな光の当たった2年生時に対し、3年生時は「谷間の時期が長かったです」と振り返る。

 

昨年度の春高では2年生エースとして活躍した藤村(左から4番目)

 

 エースでキャプテンも、という重圧が藤村を襲った。6月のインターハイ予選決勝では京都橘高にストレート負けし、2大会連続の全国大会を逃した。さらに、夏場には国体のメンバーに選ばれたことで、1ヵ月間チームの練習に参加することができなかった。「ただでさえ焦っているのに、自分がいなくてみんなにチームを託すことでさらに追い打ちをかけられました。不安な気持ちから、一人で沈んでいくことが多かったです」。持ち前の笑顔は影を潜め、食事が喉を通らない日もあった。

 そんな時期に寄り添ってくれたのが、家族であり、仲間だった。プレーに手がつかないときには、母がドライブに誘ってくれた。目的地を決めるわけではなく、曲を流して高速道路をひたすら走る。決まってかけられたのが「楽しんだらいい」「勝ち負けがすべてじゃない」という言葉。押しつぶされそうだった心は少しずつ楽になった。「この3年間は特に、自分一人ではやってこられなかった」と涙ながらに語る。

 また国体が中止となり、久しぶりに北嵯峨高の体育館に足を踏み入れると、後輩たちの目の色が変わっていた。1年生時にスタメンとして春高を経験し、今季も藤村に次ぐエースとして期待されていた佐々木みそらが、自覚を持ってチームを引っ張っていた。「うまくいかないときも自分で工夫して、乗り越えようとしている姿があった。彼女の努力は誰よりも大きいと思う。ほかにも2年生の吉岡(夢依)など、一人一人の『頑張ろう』という意識が見えて、ほんとうに心が楽になりました」と前を向くきっかけとなった。

 再び練習に励み、卒業後も競技を続ける選択肢はあった。だが、肩や腰、膝と、体は悲鳴を上げていた。「ケガをして、思いどおりにいかなくて引退するより、春高を最後の挑戦として、全力を注いだほうが自分のバレー人生に胸を張れる」と腹をくくり、限られた競技人生と向き合った。

 幼少期にピアノを習っていたこともあり、卒業後は音楽関係の専門学校に進む。

「裏方の仕事で、必ずうまくいくわけではないし、むしろうまくいかないことのほうが多いと思う。でも、(バレーボールを)あきらめずに続けた12年間。北嵯峨で粘っこくバレーをしてきたので、泥臭さを忘れずにやっていきたいです」

 この日の大一番を迎えるにあたって、決めていたことがあった。「チームがうまくいかないときに暗い顔をしてしまうことが課題だった。絶対にそういう表情は見せない」。劣勢でも、自身がブロックを決められても、藤村は笑顔で仲間を鼓舞した。

「北嵯峨に来てよかったと思うプレーができました。終わってみればほんとうにあっという間でしたが、『バレーボールっていいな』と改めて思いました」。

 思い描いたラストではなかったかもしれない。ただ、胸を張れるバレーボール人生を終えた藤村は、1年前とはまた違った笑顔を見せた。

 

引退が決まり、清々しい表情で記念撮影(左から4番目が藤村)

 

 

藤村希光

ふじむら・きひろ/3年/アウトサイドヒッター/身長168㎝/花山中(京都)出身

 

 

 

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