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トップ選手は「勝って学びたい」!? 男子日本代表の躍進を生むプラスのマインドを福澤達哉に聞く

 バレーボールの男子日本代表は今シーズン最初の大型国際大会「FIVBネーションズリーグ」で開幕から破竹の10連勝を飾るなど過去最高ともいえる戦いを演じた。近年、世界の上位国に肉薄するなど着々とステップアップを重ねてきたものが、ここにきて実を結んでいる。

 

国際舞台で目覚しい成果を上げている男子日本代表。写真はブラジル戦後(写真:FIVB)

 

公式戦で30年ぶりにブラジルから勝利した男子日本代表

 

 2022年の春、石川祐希は記者会見で、イタリア・セリエA2021-22シーズンを振り返り、「過去一、悔しいシーズンでした」と表現した。例年よりも下回った個人成績しかり、チームとしてもプレーオフでは上位勢にはね返され望む結果を手にできなかったことなど、その悔しさにはさまざまな要素がある。そうして、こう続けた。

 

「負けて学ぶこともあると思いますが、僕は勝って学びたい」

 

 その言葉から1年後、石川はイタリアの地でキャリア史上最高というべき結果を残した。チーム成績でいえば、カップ戦、プレーオフでいずれも決勝まであと一歩に迫ってみせた。なかでも、プレーオフでは準々決勝ラウンドで世界クラブ王者ペルージャを撃破。それまで一度も勝てていなかった強敵を下したことで、チームそして石川の姿には自信がみなぎった。

 

 まさにブレイクスルーを果たしたわけだが、その構図は今の男子日本代表にも似ている。例えば、オリンピックで3度の金メダル獲得を誇るブラジルに対して、19年のワールドカップ、21年の東京2020オリンピック、22年のネーションズリーグでは、敗れはするものの、競り合う局面は徐々に増えていった。そうして今年のネーションズリーグで、ついに公式戦では30年ぶりとなる勝利を挙げた。

 

現在はパナソニックで社業に就きつつ、パンサーズのアンバサダーやバレーボールの解説を務める福澤氏

 

勝利したあとの、選手が抱くマインドは2つに分かれる

 

 これまで勝てずにいた、むしろ尊敬と恐れを抱いていた相手から勝利したことで、一気に世界が変わる様子は、これまでスポーツ界で何度も見られてきた。ラグビーの日本代表が15年ワールドカップで強豪・南アフリカから劇的勝利を奪い、その後の飛躍につなげたのは最たる例だ。おそらく彼らには“勝って学べた”ことがあった。

 

 では、アスリート視点で、その真意は。石川の言葉を、バレーボールの元・男子日本代表で長らく活躍し、現在はVリーグのパナソニックパンサーズでアンバサダーを務める福澤達哉氏に聞いてみる。

 

 そもそもアスリートはえてして負けず嫌いで、“勝ちたい”生き物であることは簡単に想像できる。やはり“勝って学びたい”もの?

「“勝って学びたい”という感覚はとても大事なことだと思います」と語り、こう続けた。

 

「勝利したあとの選手の思考は、大きく2つあると思うんです。一つは、『勝ったからよかった』。もう一つは『勝ったけれど、もっとこうすれば、さらに強くなれる』。これは大きな違いです。

 

 印象的だったのは、野球のワールドベースボールクラシックで優勝したあとに、日本の大谷翔平選手がすぐ反省を口にした、というエピソード。たぶん、これぞトップアスリートの感覚なんだろうな、という気がしました。

 

 そういうマインドを持った選手は、勝ち負けで物事を測っていないんですよね」

 

勝利したあとはリラックスした表情が見られるが、その“次”を見据えている

 

【次ページ】選手自身の中にある、勝敗とは異なる評価基準

 

相手のメンバーは違えども、ネーションズリーグ予選ラウンド第1週名古屋大会では前回大会王者のフランスから勝利した

 

選手自身の中にある、勝敗とは異なる評価基準

 

 試合では勝敗がつきものだし、だからこそ、うれしいし、悔しい。だが、それとは違うベクトルがあるというのだ。

 

「やはりスポーツは結果が明確に出るものなので、『勝ったらオッケー、負けたらダメ』という感覚は当然だし、大事な部分でもあると思います。ですが、そこの客観的な評価基準とは別に、選手本人の中で基準をどれだけ持っているか、が重要で。それによって、成長度合いが変わってくるものなんです。

 

 おそらく石川選手は、自分の目指すべきプレーヤー像があり、『これをやらなければいけない』『こうしていきたい』と常に明確な目標設定をしているはず。勝利したうえで、『もっとこうすればさらによくなる』というプラスの要素に目を向けられるからこそ、それが“勝って学びたい”という言葉につながったのだ、と私は感じました」

 

 まぎれもなく、福澤氏もトップ選手の一人だった。一方で、自身のキャリアを「世界を相手に勝つことの難しさを身をもって痛感してきた。負けから学ぶことのほうが多かったかもしれない」と振り返ったが…。

 

「負けた試合だと、どうしても課題ばかりに目が向いてしまうので、それを修正するために時間が取られてしまいます。

 勝った試合は、すでにできていることがあって、そこにプラスの要素を上乗せして次に進むことができるので、その点ではやはり勝ったほうがいいし、“勝って学べる”ことがありますよね。

 もちろん、勝つことが前提なので簡単な話ではないですが…」

 

男子バレーのフロントランナーとして日本代表をリードする⑭石川

 

「あとは勝つだけ」と口にしていた男子日本代表の選手たち

 

 福澤氏は言う。「勝ち続けることで、また新たな世界が見えてくる」のだと。

 

 まさに、今の男子日本代表がそうだ。ネーションズリーグでは連勝街道を突き進むなか、もちろんコンディションの難しさや対戦相手の状態のよしあしはあるものの、それでも試合を重ねるごとに、選手たちの姿はたくましく映る。

 

 思えば、昨年の世界選手権で東京2020オリンピック金メダルのフランスからの勝利にあと一歩まで迫った。その経験を糧に、今年の代表シーズンを前にした選手たちの口からは「あとは勝つだけ」という言葉がたびたび聞かれたものだ。

 

 代表活動とクラブで事情は異なるが、ブレイクスルーを果たした石川の姿を振り返り、福澤氏はこう語った。

 

「格上相手に勝利しかり結果を出すことで、自分の中に漠然としてあったイメージがリアルに近づいていく。その感覚は確かに私の現役中も何度かあった気はしますね」

 

 パリオリンピックでのメダル獲得、その前に立ちはだかる予選突破という大きな壁に挑み続ける男子日本代表。そのために必要な、世界の強敵たちを倒すこと。そのイメージは確実に、今回のネーションズリーグを経て選手たちの中で現実的に見えているに違いない。

 

 だからこそ、彼らは勝ちたい。勝つことで今、学んでいるのである。

 

今年最大のターゲットであるパリオリンピック出場権獲得を目指し、男子日本代表は歩みを止めない

 

(取材/坂口功将〔編集部〕 写真/山岡邦彦、石塚康隆)

 

快進撃を続ける男子日本代表の強さに迫る

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