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夢の舞台 世界に響き渡るHIKOコール ~チェコリーグ初挑戦の今村貴彦~

30歳にして初の海外リーグへ

 

 日本から時差にして8時間。

 チェコはクラドノというはるか異国の地で、「HIKO」コールが鳴り響いていた。

 

クラドノの18番「HIKO」こと今村貴彦

 

 2023/24シーズンより、大卒1年目から慣れ親しんだパナソニックパンサーズを離れ、チェコ1部エクストラリーグのクラドノ・バレーボール(以下、クラドノ)に移籍した今村貴彦。

 

 今年30歳を迎えた今村は初の海外挑戦。近年、日本人バレーボーラーの海外移籍は増加傾向にあるが、この年齢から挑戦する選手はそう多くはない。そんな中、パナソニックという国内最高峰のクラブを出て、チェコという未知の世界に足を踏み入れた。

 

 プロバレーボーラーとしての道を歩み始めた今村は、どのようなシーズンを送っているのだろうか?

 

クラドノの風景。中世の街並みが残る

 

新天地で確かな存在感を発揮

 

 緯度は北海道と同じくらいで、11月上旬には気温が0℃近くまで下がることもあるこの町。首都プラハからは、電車とバスを乗り継いで約1時間の田舎町だ。

 特別な観光地でもなく、首都からも少し離れてはいるが、バレーボール熱は確かで、クラドノのアリーナはホームゲームになると数多くの観客に彩られる。会場を訪れた11月9日もホームゲーム当日で、青のグッズを身にまとった観客で埋め尽くされていた。

 

熱心な地元ファンたち

 

 この日はシーズン開幕から全勝をキープするクラドノが、同リーグで9位につけるブルノをホームに迎えた一戦。絶対に負けられない試合だ。

 アリーナは非常にきれいで大きいにもかかわらず、天井が低い。ほかにラインジャッジの人数が2人であることなど、Vリーグを見慣れた筆者からすると、戸惑いを隠せない日本との違いがいくつもあった。

 アリーナ前列に席を取って試合開始を待ちわびていると、聞き慣れた言葉が。顔を上げると、日本人の女性が3人。隣の席に座っていた。

 

 「今村選手が所属していると知って、応援を始めたんです」とその女性は語った。

 「チェコに日本人が集まる秋祭りがあって、そこで今村選手の存在を知りました。そこから、一度応援に行ってみよう! と思って会場に足を運んでみて。今ではシーズンチケットを購入して、毎試合プラハから通っています。」

 シーズンが開幕して1ヵ月足らずで、早くも加入が話題になっているようだ。

 

 18時に試合開始。今村選手はベンチからのスタートとなった。

 1セット目は25-20で先取したものの、2セット目は最大5点のリードを奪われる苦しい展開。そんな流れを変えたい場面で、監督は交代のカードを切った。

 アップゾーンからベンチに走る背番号18の姿。選手交代として「IMAMURA」の名前がコールされると、会場は歓声に包まれた。待ってましたと言わんばかりの大声援だ。

 交代直後のレセプションでAパスを返し、スパイクを決めると会場からは「HIKO! HIKO!(今村選手の愛称)」のコールが。特に若い女性ファンからの声援が大きく、現地サポーターからの人気を得ていることが窺えた。サーブ順がくると、パナソニック在籍時と同じように観客が手拍子で後押しする。

 

流れを変えることが大きな役割の一つ

 

 惜しくも2セット目は落としたが、3セット目は5-10のビハインドから2連続でスパイク得点を決めるなど随所で光る活躍を見せ、セットカウント3-1で勝利。今季最長時間の出場となり、絶対に落とせない試合でチームの勝利に貢献した。

 驚いたのは試合終了後だ。

 他の選手がクールダウンのストレッチを行っている中、今村の周りにだけ大きな人だかりが。サインや写真を求めるファンが殺到し、大きな輪を作っていたのだ。現地のファンやジュニアの選手の心を入団1ヵ月足らずでつかむという今村のクラドノ加入は、確かにチームに影響を及ぼしていた。

 以下、インタビューに応じてくれた今村との一問一答を紹介する。

 

試合後はこの人気! ファンサービスも全力

 

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“あとに何が残るか”によって今後の選択を

 

――今日の試合を終えての感想は?

「まずは3ポイントを取れて、ほっとしています。開幕戦からフルセットを一度もやっていない。こうやって雰囲気が悪いなかでも3-1でちゃんと勝ったのはすごくいいこと」

 

――途中交代の難しさもあった?

「常に準備はしているので、代わりに入ったら必ず何かしてやろうという思いはあります。途中交代に関しては慣れているので、そこはキャリアで勝負しようと思っています」

 

――日本のVリーグと違う、環境に関してはどう感じる?

「文句を言いたいことはいっぱいありますよ。でも、やらないなら帰ってください、と言われるだけなので。僕は帰るためにクラドノに来ているわけではないので、いかなる環境でもベストを尽くします。リカバリーや食事など、全部自己管理しなくてはいけません。他の選手は試合後にお酒や炭酸ジュースを飲んでいることもありますが、そこは流されることなくやっています。これまで自分のコンディションをつくってきたものがあるので、そこに沿ってやるだけです」

 

自分なりの意識でコンディションを整え、毎試合に臨む

 

――試合後のファンの反応や知名度の向上についてはどう感じている?

「もちろん第一は試合に勝つことですが、クラドノに所属しているので、しっかり盛り上げてクラドノに貢献していきたい」

 

――選手としての今後の目標は?

「今後のことを考える余裕はなくて、まず今の生活をどうするか。まずは試合に出て結果を残して、チームが勝つことがいちばん。そのあとに何が残るかによって、今後の選択をしていきたいですね。海外挑戦は1年で満足するのか、それとももっと高みへいきたいのか。まだ現時点では、日本では信じられないような毎日の出来事にびっくりしながら過ごしているだけです」

 

ファンに支えられて生きるプロ選手

 

食事も自分で。異国の地での買い物には慣れた?

 

――チェコ移籍のタイミングでファンクラブ(「ヒコセビ」)を開設した思いとは?

「今回、期限付きプロ選手という形で、バレーボール一本で今シーズン戦っていくと決めました。その選手としての生き方や生きざまをファンの方々に見て欲しいのと、コロナ禍の影響で(ファンとの)関わりが減ってしまっていたので、また身近に感じて欲しいと思っていました。ファンクラブを作ることで応援してもらい、僕は応援してきてもらった分を恩返しする。ファンクラブは力になっているどころか、ないと生きていけません。そういう世界で戦っています」

 

――日本から応援するファンにひと言お願いします

「何してんねん、って言われるかもしれないですけど、海外挑戦は昔からの夢でした。この夢を自分で口に出し続けて、やっとかなった海外挑戦だと思っています。これもファンの方々やパンサーズのスタッフの方々、パナソニックの社長や上司が動いてくれて、背中を押してくれて今の自分がいるので、感謝の気持ちを忘れずに頑張っていきます。プロ選手になったからにはファンの方々あっての選手なので、応援をパワーに変えて戦っていきます!」

 

チェコでのシーズンはまだ始まったばかり。クラドノもCEVカップに参戦しているため、勝ち進めば石川祐希選手擁するミラノ(イタリア)と対戦する可能性もある。

世界の大舞台で「HIKO」コールが鳴り響く日を期待せずにはいられない。

 

いまむら・たかひこ

1993年5月20日生まれ/身長193cm/日向学院高→中央大→パナソニック/アウトサイドヒッター

 

(取材/島原隼人)

 

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