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「ビーチバレーボールの神様になりたい」長谷川徳海が全日本選手権で連覇を達成も、抱き続ける壮大な目標と競技への熱き思い

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「ビーチバレージャパンJVA39回全日本ビーチバレーボール選手権大会 男子」が811日から13日に鵠沼海岸(神奈川)で開催され、黒川寛輝ディラン(LIVZON/長谷川徳海(ハウスコム株式会社)組が決勝で水町泰杜(トヨタ自動車株式会社)/黒澤孝太(明治大4年)を2-121-18,20-22,17-15)で下し優勝に輝く。長谷川にとっては大会連覇となった。

 

 

長谷川徳海(はせがわ・よしうみ/1984年8月23日生まれ/身長186㎝/中越高〔新潟〕→中央学院大/ハウスコム株式会社所属)

 

 

自身のYouTubeチャンネルやSNSを積極的に展開する長谷川

 

「ビーチバレーボールの神様になりたいですね」

 その言葉を聞いたのは1年前、2024713日にTACHIHI BEACH(東京)で開催された「ジャパンビーチバレーボールツアー20244戦 立川立飛大会」の初日を終えたあとの取材でのことだった。

 

 この大会では通常のルールとは異なる、「Crown of the beach形式」が採用されていた。これは海外の大会では取り入れられている「キング・オブ・ザ・コート」をアレンジしたものだったが、とはいえ新しい取り組みであり、とりわけ初めて観戦する人たちにとっておそらくハードルは低くなかったはず。そこで長谷川は大会前日に自身のYouTubeチャンネルで、事前に大会から発表されていたレギュレーションをもとにルールの解説動画を配信したのである。もっとも長谷川はYouTubeを筆頭にSNSなどを積極的に活用し、自身のことや大会の振り返りといったさまざまな情報を視聴者へ届けると同時に、そこでファンとの交流を育んでいる。そうした活動に励む理由をこう語った。

「元々は僕の母校のバレーボール部向けに、ビーチバレーボールのHOW TOを出すのが目的で、解説動画などを始めたんです。そうして1年間、動画を出し続けたらしだいに僕個人にもファンがつくようになってきました。

 ビーチバレーボール選手として活動して1617年になりますが正直、コンテンツとしてのビーチバレーボールや競技そのものの魅力、奥深さを一般の方々に伝えるのは不可能だと感じていて。ならば、まずはとにかく『長谷川徳海』という僕自身を見にきてほしい、と。僕のファンになってもらって、そこから少しずつ啓発していく作業ができればと思っています」

 

 その立川立飛大会では、インドアとビーチバレーボールの二刀流挑戦で注目を集めた水町が結果的に準優勝に。水町のファンたちの姿が観客席には多く見られたが、その現実に触れながら長谷川はこのように受け止めていた。

「今日でいえば、きっとビーチバレーボールではなく、水町選手を見にきている方々が大半でしょう。ですが、選手にファンがつくことで、会場に足を運ぶ人たちを集められるのは確かですから。すべての選手が魅力そのものとなって、そこにファンがつけば、おのずとビーチバレーボールの現場にも人が集まってくるのではないかと。それが長らく活動してきて僕が感じたことなので、まずは自分がやってみようと考えています」

 

 その取材の最後に聞いてみた。そうした思いも含めて、今のご自身が目指すものは? その答えが冒頭のセリフだったのである。

「ビーチバレーボールの神様になりたいですね。スキルもそうですし、影響力もつけたいと思っています。だから結果が欲しいですし、まだまだ技術を磨きたい。先輩たちを見ていると素晴らしい選手たちばかりですから、その方々を追い抜きたいですし…、うん。神様になりたいです」

 

【次ページ】「あれがビーチバレーボールだよなぁ」という先輩の言葉に「そういう試合ができたことがうれしい」と長谷川

「あれがビーチバレーボールだよなぁ」という先輩の言葉に「そういう試合ができたことがうれしい」と長谷川

 

 

ビーチバレージャパンの決勝では勢いに乗る水町(コート手前)の前に立ちはだかった

 

 

 長谷川自身はブロックの名手として腕を鳴らし、試合でブロックシャットが決まれば観客を巻き込んでリアクションをとるなど、その場を盛り上げることもいとわなかった。そうして今や『長谷川組』なるファンたちが会場に足を運び、黒色のアイテムで応援するのがおなじみの光景となっている。それはこの夏の鵠沼海岸でも同様で、熱い声援を受けながらビーチバレージャパンを勝ち上がっていく。

 

 決勝では7月に「FISUワールドユニバーシティゲームズ(2025/ライン・ルール)」を経験したことでレベルアップした水町/黒澤組を退ける。最終セットは相手に14-15とチャンピオンシップポイントに到達されながらも、そこから3連続得点をあげる逆転勝利で日本一をつかんでみせた。

 驚くべきは、その展開でもスコアが頭に入っていなかったこと。試合後、報道陣にふられて「今、言われて気づきました」と長谷川。隣の黒川も「1点を取る作業はどのシチュエーションでも変わらない。その一心で戦っていたので、正直記憶にないといいますか…」と、きょとんとした表情を浮かべる。

「おそらく点数を気にせずに、僕らがやらなければいけないことをただ淡々とやった結果、逆転しただけなので。目の前のことに集中できたのが要因かなと思いました」

 

 

黒川(右)とのペアは今年、各大会で上位成績を残している

 

 

 その長谷川の言葉が、今年のジャパンツアーにおいてもここまで2大会で優勝を飾っているペアの強さを表していた。そうしてビーチバレージャパンも制したわけだが、「数字にはそれほどこだわっていなくて、大会連覇も気にしていない。正直、今年勝てたことがうれしい」と長谷川。続けて、こんな胸の内を明かした。

「ただ、このビーチバレージャパンはとても特別な大会だと思っているんです。今年はとくに、初日は風がめちゃくちゃ強くてプレーするのも大変だったのですが、初日の試合を終えたあとに川合俊一会長が僕たちのベンチに来たんですね。『相手チームのサーブやばくなかった!?』と、まるで小学生みたいな顔をしながら言ってきたんです。『すごいよなぁ。でも、お前たち(黒川/長谷川組)もグッドサイドでしっかり点を取りきって勝つじゃん。あれがビーチバレーボールだよなぁ』って。

 ふだん、僕はそれほど話すことはしないんです。川合会長が他チーム(トヨタ自動車ビーチバレーボール部エグゼクティブ・アドバイザー)ということもあって。ですが、『今日の試合、おもしろかったぁ』とうれしそうに言っていました。そういう試合が、それこそ僕たちの先輩方がおもしろいと思ってくれるようなゲームができていることが、僕としてはうれしかったです」

 

 そんな長谷川をたたえるように、大会の表彰式では藤沢市の鈴木恒夫市長が「湘南の顔になってもらえたら」と挨拶した。その言葉を受けて、本人も「観光親善大使みたいなものにしてもらえたら。ぜひお願いしたいです」と笑い、黒川も「見た目は最高にマッチしていますよね」と後押しする。それでも「(ビーチバレージャパンで)10連覇した先輩も大使になれなかったので。もっともっと頑張らなければ」と長谷川は意気込んだ。

 

“日本のビーチバレーボール発祥の地”である鵠沼海岸で今夏も日本の頂点に立った長谷川。すでにビーチバレーボール界の顔であることは言うまでもないが、果たして目指す“神様”の領域には近づけただろうか。はたまた先のことを見ずに目の前に集中しているかも? 1年前の取材で口にした言葉がよみがえる。

「僕は好きでビーチバレーボールをやっているだけなんです」

 純粋な競技愛を抱きながら、長谷川はこれからもその道を極め続けるのだ。

 

 

ビーチバレーボールの伝道師たれ。長谷川の生き様がそこにある

 

(文・写真/坂口功将)

 

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