「おまえ、バレーしにきてんだろ?」ルーキー山﨑真裕を奮い立たせたベテラン渡辺俊介の言葉。天皇杯優勝のWD名古屋で輝く努力の結晶
- SV男子
- 2025.12.25
渡辺俊介(左/わたなべ・しゅんすけ/身長180㎝/身長315㎝/深谷高〔埼玉〕→順天堂大学→東レアローズ→エルトマン〔ドイツ〕→ヴォレアス北海道→ブカレスト〔ルーマニア〕→東レ/リベロ)
「僕も試合に出たいから努力している。そこに年齢は関係ない」と渡辺
もしかしたら開幕戦のベンチアウトを素直に受け止めるだけに終わっていたかもしれないルーキーを奮い立たせた、ベテランからの喝に似た問いかけ。
渡辺にその真意を聞くと、「いやいや、喝なんて入れてないですよ」と否定した。そこにあったのは年長者という立場からの若手選手に向けた助言のたぐいではなく、あくまで同じ目線での意識の共有だった。
「そういうことをやってやろう、という思いは特にないんです。ただ、『試合に出るために。巡ってきたチャンスで力を発揮するために。努力はできているかい?』とは自分にも周りにも常に問いかけていたいだけ。僕も試合に出たいから努力をしていますし、そこに年齢の上下は関係ありませんから。
その点に関して僕はたとえ仲間が年下であっても、同じスタンスでいますし、同じ目線で話ができているかと思います。確かに年が離れているので、そう言われたら怖いかもしれませんが、そこは『オレも選手だし、おまえも選手だし』とね。
こうして年齢が上になるほど実感するんです。選手内で、いい関係性が構築できているとチームにとっていい効果が生まれるのだと。なので、その意識は持ちながら過ごしています。ただし自分も、もっともっといいプレーをしなければ」
渡辺自身は順天堂大を卒業後、2011年から東レアローズ(現在の東レアローズ静岡)で社会人選手としてのキャリアを歩み始めた。
「自分が若手の頃はどうでしょう…。自分では取り組んでいるつもりでいましたが、周りからは『全然足りてないな』と見られていたかもしれませんし、自己満足に終わっていたかも。ですが試合に出たい気持ちは強かったので、当時はただ必死に食らいついていました」
ガッツあふれるプレーで、WD名古屋でも守護神を務める
2024-25シーズンからWD名古屋に加入した渡辺が試合前に見せる姿
やがてプロ選手として海外リーグや、当時国内2部を戦っていたヴォレアスでプレーし、2024-25シーズンからWD名古屋に加入した。そこでは試合が始まる前から汗が噴き出るほどに顔を真っ赤にさせ、誰よりも入念に体を動かす渡辺の姿があった。それは本人からすれば、試合で最大のパフォーマンスを発揮するための準備に過ぎない。一方で、こんな思いを明かしていた。
「何のためにやっているかと聞かれれば、『これが仕事だから』なんです。自分のコンディションをマックスに持っていかなければいけないので。
周りから『めちゃくちゃ準備しているな』と感じてもらえたり、WD名古屋のファンから『こんな選手がいるんだ』と注目してもらえたらうれしいです。それに、これは特に若い選手たちに届いてくれたらと願っています。『なんで、この人はこんなにアップしているのだろう?』とね」
キャリアや実績がどうであれ、一人の選手として自分がやるべきことの一つ。それを周りがどう受け取るかはわからない。けれども若手選手に響いたのであれば、ベテランであることに一つの価値が見いだされ、同時に、チームにとっての財産となる。今の渡辺がまさにそうだ。
2024-25シーズンにWD名古屋へ加入した当初から、試合前には入念にアップを施す渡辺の姿が見られた
天皇杯を戦い終えて、渡辺が口にした言葉
今年の天皇杯で、ルーキーながら戦術の一つをまっとうした山﨑の姿を渡辺はこのように評価した。
「彼が努力している姿を見ているので、出番が増えてきたのも必然だと感じます。やるべきことをやっていますし、それは新人選手の中でもいちばんと言えるほど。だからこそ、おのずとチャンスはあるし、それをものにしている。素晴らしいと思います。この先もチームにとって間違いなく強みになるでしょう。
ですが、本人も満足していないと思うので、もっともっとプレー時間が増えるように継続しなければなりません。それでも僕が新人の頃と比べると、素直にすごいなと感じます」
山﨑真裕はバレーボール選手の顔つきになってきたか。決勝を終えて、渡辺にたずねてみる。「うん、そうですね」とうなずき、こう続けた。
「今回のような大舞台で実際にプレーして初めて得られることは間違いなくあります。それを味わえたことは本人にとって、とても大きかったはず。
やっぱりね…。チャンスは平等ではないですから」
試合に出るために。巡ってきたチャンスで力を発揮するために。努力はできているかい?
渡辺が最後に口にした言葉は、自分自身に問いかけているように聞こえた。
年齢関係なく、やるべきことを。それがチームの強さにつながるのだ
(文/坂口功将 写真/WOLFDOGS NAGOYA)
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