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春高2026

福岡大男子「九州から日本一へ」 強化と人間形成の両立を目指して

  • 大学生
  • 2026.05.05

まだ肌寒く感じる3月初旬。福岡大(福岡)の第二記念会堂には、全国各地から大学男子の強豪10校が集結していた。「全国ブロック大学男子バレーボールチャンピオンマッチ(以下、チャンピオンマッチ)」。11回目を迎えた本大会は、福岡大男子バレーボール部を率いて今年で40年目を迎える牛原信次監督らが立ち上げたものだ。九州の地方大学が、なぜこれほど多くの強豪校を引き寄せるのか。その理由は、バレーボールの強化だけにとどまらない、牛原監督の深い信念にあった

 

 

開会式の様子。参加したのは男子の日本大、慶應義塾大、中京大、朝日大、近畿大、京都産大、関西学院大、東亜大、高知工科大、福岡大の10校 

 

身をもって経験したい

1点の重み

「関東の強豪チームを打破する力を身につけること」。

 本大会の目的を牛原監督に尋ねると、そう力強く返ってきた。

「参加してくれている大学は、全国各学連の強豪校と、関東で優勝候補と争っているチームです。『打倒・関東』を掲げ、全日本インカレ優勝を目指して切磋琢磨することを目的として開催しています」

 そして、その「打倒・関東」のためには、「1点の重みを知ることが不可欠」と牛原監督は指摘する。

「関東のリーグ戦では、一本ミスしたらそのまま負けてしまうことが多々ある。今回参加してくれた関東の大学も、強豪校と日ごろから対戦しているので、その『1点の重み』をよく知っています」

 

 

チャンピオンマッチは、4日間かけて10校が総当たりで予選リーグと決勝リーグを行い、順位を決める。試合数が多く、ハードな大会である

 

 

 その言葉の裏には、苦い記憶がある。2018年の全日本インカレ3回戦、ベスト8進出をかけた東海大との一戦だ。福岡大はセットを先取し、2セット目も先行していた。しかし、その流れはたった1点で変わってしまった。

「ほんとうに、たった1点取られただけだったんです。でも、東海大はその1点を見逃さなかった。ものすごく盛り上がって、その勢いで押し込んできたんです。うちの選手たちはそういった経験をしたことがなかったから、土俵際まで追い込まれてそのまま押し出されてしまった」

 そのまま2セット目を落とし、3、4セット目も奪われた。強いチームは、たった一つのミスも見逃さない。その「1点の重み」を知らないままでは、どれだけ練習しても関東の強豪に勝つのは難しい。

 一方、九州で福岡大に対抗できる大学はそう多くない。「たとえ5本ミスをしても追いつけてしまう実情がある」という。だからこそ、各学連の強豪チームを招き、シビアな試合を経験させることに牛原監督はこだわっているのだ。

 

 

牛原監督(写真)と東亜大学の佐幸法昭前監督、鹿屋体大の古澤久雄前監督 の呼びかけで、「海峡リーグ」として始まった本大会。その後、大分県別府市での開催を経て、2019年の第6回大会より福岡市に会場を移し、今年で11回目を迎えた

 

 

技術の前に、一人の大人として

各大学が共鳴する人間形成の信念

 打倒・関東に加えて、牛原監督がこの大会に込めたもう一つの意義は「人間形成の場」としての役割だ。そして、全国の指導者たちもそこに深く共鳴している。

 本大会に、はるばる愛知県から参加する中京大の青山繁監督は、参加理由を次のように述べる。

「さまざまな強豪校と試合できるのはもちろん魅力ですが、それだけではありません。あいさつ一つ、荷物の並べ方一つとっても、きちんとできているチームは強くなっている。そういったところを見習うよう、選手たちに声をかけています」

 

 

試合後にミーティングを行う青山監督 

 

 

“最後の教育機関”である大学のクラブ活動という性質上、監督たちは人間形成の側面を強く意識している。朝日大の梅野聡監督は、大学という場を次のように表現した。

「大学は、海と川の境界線である『汽水域』とよく言われます。これは、子どもと大人の境界線にあるという意味です。大学外に出て受ける刺激は海(社会)に近いので、そうしたところに触れる時間は大事にしたい。この大会に参加することで多くの人たちから刺激を受けて、人間的な成長につながる場になるといいと思っています」

 

 地域を超えて集まり、合宿所でともに過ごしながら、あいさつや整理整頓といった当たり前のことを大勢の視線の中で身につける。その時間こそが、選手たちの人間形成において何よりの財産になる——。全国の指導者たちが口をそろえるその言葉は、牛原監督の志と重なっていた。

 では、福岡大は具体的に何をしているのか。その答えは、大会の運営にあった。

 

 

大会当日も、忙しく動き回っていた渡真利主務

 

 

「将来に役立つ経験を」

大会を回しているのは一人の大学生

 全国各地から10校もの大学が参加するこの大会。その運営を担うのは、監督や大学の教職員ではない。福岡大男子バレーボール部の「主務」だ。ここでいう主務は、高校なら部活動の顧問が行うような大会申込などの事務手続きや、練習試合などの外部との調整を一手に引き受ける役割を務める。今年その重責を担うのは、春から新3年生となった渡真利崚主務だ。各校の申込受付から、宿泊・食事の手配、審判団とのやりとり、パンフレットの制作、広告の出稿依頼まで、すベてを一人でこなす。そのタスク量は、社会人顔負けだ。

「この大会の運営は今年で2回目なので、だいぶ要領はわかってきました。でも、去年は初めてで、学業との両立もうまくできなくてほんとうに大変でした。最後の1ヵ月は休みもほぼない状態で奔走していました」と渡真利主務は1年前を振り返る。

 

 苦労ばかりが多いようにも思えるが、今回、渡真利主務はこの役割を自ら買って出た。それには理由がある。

「将来は教員になって、バレーボールの指導も続けていきたい。そう考えると、主務の仕事を経験しておくことは、教員になったときに役立つのではないかと思いました」

 牛原監督が一学生である主務にこれだけの役割を任せるのも、同じ考えからだ。

「当部の卒業生が約310人いるうち、3分の1の約120人が卒業後は先生になっています。将来、指導者になったときに、大会運営の経験があるのは大きな力になる。社会人になっていくための経験を積ませたいと考えてのことです」(牛原監督)

 

 大会が終われば、各校の監督や主務たちから感謝の言葉が届く。「見えないところの頑張りや気遣いにも気づいてくださるので、やりがいがありますね」と渡真利主務は笑う。大会当日は、開会式の司会進行や大会運営に必要なスタッフの割り当てをこなすとともに、各種問い合わせにも答えながら大会の速やかな進行に気を配る。各大学がしっかり交流できるように指揮をとる渡真利主務の姿は、学生とは思えない頼もしさだった。

「ただバレーボールの強化だけでは終わらせない。4年間で社会人を育てる」。牛原監督のその信念は、渡真利主務の姿からも証明されていた。

 

 

ふだんなかなか対戦の機会がないチームと試合ができるのも、チャンピオンマッチの魅力の一つ

 

「関東に行かなくても、プロになれる」

福岡大が提示する新たな可能性

 牛原監督の構想は、人間育成だけに留まらない。

「関東の大学に行かなくても、福岡大に行けばプロになれる。世界と戦える」。これが、福岡大が九州から発信するもう一つの挑戦だ。

 福岡大からは例年、SVリーグへ即戦力級の選手が輩出されている。ヴォレアス北海道の池田幸太や日車恭輔、VC長野トライデンツの山田航旗(退団を発表)、ほかにもこの春に卒業し、東レアローズ静岡に加入した馬渡拓巳など。地方の大学でありながら、これほど安定して選手を送り出している大学は珍しい。

 

 その一助となっているのが、全部員が参加する韓国の大学との定期交流だ。国際大会の代表などに選出されるのは関東の大学からが多く、地方大学には国際経験を積む機会がなかなか回ってこない。「であれば、チームでその機会をつくればいい」。そう考えた牛原監督が始めた取り組みである。

「1週間から10日ほど現地で暮らすように過ごすのはいい経験になっています。観光に行くわけではないので、食事をするのは現地の大学にある学食。観光客向けの味付けではないから、辛くて食べられない人やお腹を下してしまう人も出てくる。でも今後、日本代表入りを目指すなら、こうした環境にも慣れる必要があるので大事な経験ですね」

 

韓国・成均館大との定期交流の様子

 

 

 さらに福岡県は2024年、国際バレーボール連盟(FIVB)と日本バレーボール協会(JVA)、オセアニアゾーンバレーボール連盟(OZVA)との4者で覚書を締結。アジア・オセアニア地域のバレーボール強化拠点として、2025年にはU20ニュージーランド代表を福岡大で受け入れるなど、国際交流の最前線に立っている。

 福岡大は就職実績や指導者の輩出数で、関東の強豪校に引けを取らない。昨年に亡くなった鎮西高(熊本)の前監督・畑野久雄氏の跡を継いだ、宮迫竜司監督も牛原監督の教え子だ。

「僕はバレーボールだけ強くなればいいとは思っていません。4年かけて社会人を育てようと考えているんです。プロにならない選手たちも、指導者になって子どもたちを指導して、その子どもたちが福岡大に進学してくれるといい。あらゆる面において『九州に福岡大あり』とバレー界に存在意義を放っていきたいですね」

 

 バレーボーラーとしての、そして社会に出て行くための経験値を、福岡大で積み上げてほしい。そう願う牛原監督は、笑顔で最後にこう付け加えた。

「あとは、全日本インカレで勝つだけ。福大に行けば優勝できるという未来を、我々は本気でつくりにいきます」

 

 

U20ニュージーランド代表選手団との練習試合を2日間、福岡大で行った

 

取材・文/フジサキ ヒロ

 

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