アジア選手権への再始動 進化する富田将馬とベンチから届く石川祐希主将の声
- 男子日本代表
- 2026.08.24
男子アジア選手権大会は9月4日(金)から福岡で開催される。優勝すればLA28の切符を最速で手にすることができる重要な大会に向け、男子日本代表の合宿が8月10日から6日間にわたって、鹿児島県薩摩川内市のサンアリーナせんだいで行われた。惜しくもメダルを逃したネーションズリーグ(VNL)の悔しさを胸に、アジア選手権、そしてオリンピックへ向けて新たな一歩を踏み出している
着実に信頼と実績を積み上げている富田将馬(中央)
「死にましょう(笑)」
突き詰めるのは勝敗を分ける細部
昨年の薩摩川内合宿では「生まれてきたことを後悔するような練習」をテーマに掲げていたロラン・ティリ監督は、今年の合宿のテーマについて問われると、茶目っ気たっぷりにこう明かした。
「今年のテーマは『死にましょう』にしようかな(笑) 実は初日にすでにやりました。なので、選手たちからも『薩摩川内合宿“あるある”の練習なんですね』といった声があがりました」
VNLでは準決勝、3位決定戦ともにあと一歩で敗れ、メダルを逃した。激闘を経て浮き彫りになった課題について、指揮官は3つの軸を掲げた。
「1つ目は、ケガをしないこと。2つ目は、レセプションやアタック、ディフェンスといった細かい部分の精度を上げること。毎日が学びなので、そのなかでも選手にいいところを(自分に取り込んで、練習に)取り組んでほしいと伝えました。そして、3つ目は、コンスタントに安定したパフォーマンスが発揮できるようにすること。この3つをアジア選手権に向けてやっていきたいと思っています」
男子日本代表を率いて2年目のロラン・ティリ監督
石川祐希主将もまた、この合宿を「アジア選手権で勝ち、オリンピックに向かう準備をするための非常に重要な時間」と位置づける。終盤の競り合いを勝ちきるための課題について、石川主将はこう言葉を続けた。
「そこ(最後の1点)は試合で取りきるしかない。練習でどうこうという話ではありません。ただ、そこまでにつなぐ1点や、そこに至るまでのゲームプランは練習で強化できるので、この合宿を含めて強化していければと思っています」
薩摩川内の合宿では、強度の高い練習を行った
悔しさを糧に進化を遂げた仕事人
ティリ監督が掲げる「安定感」や、石川主将が求める「ゲームプランの遂行」。し烈な国際舞台において、スターティングメンバーだけでなく、途中出場で流れを変える交代選手の存在が命運を分けることは言うまでもない。今季のVNLでまさにその役割を果たし、チームに欠かせぬピースとして台頭したのがアウトサイドヒッターの富田将馬だ。
打ってよし、拾ってよし。「富田が出てくればなんとかしてくれる」。見ている人にそう思わせるだけの信頼と安定感が、今の彼にはある。
合宿中も攻守ともに躍動し活躍を示した
昨年のVNLでは予選ラウンドで主将を任される試合もあったが、その後の世界選手権ではメンバーから外れるという苦杯をなめた。
「去年外れた悔しさは、誰よりも強く持っています」
その悔しさを糧に、SVリーグで課題として富田が向き合ってきたのが、攻撃力の強化だった。
「(攻撃の)いいときと悪いときの差が激しく、個人の技術不足はティリ監督からも指摘されていた部分だったと思います」
転機となったのは、大阪ブルテオンでともにプレーしたフランス代表セッター、アントワーヌ・ブリザールとの出会いだ。
「こんなに速いトスでも打ち分けができるんだ、と気づかせてもらいました。そこを代表のセッターにも要求しつつ、二段トスでは自分の打点でゆっくりブロックアウトを狙うなど、引き出しの多さを練習して身につけてきました。そこが今シーズンはほんとうによくできていると思います」と手応えを語る。
磨き上げた攻撃力に加え、元来の持ち味である守備力でも貢献する。
「途中出場で安定感を出してチームを落ち着かせるところで貢献しないと、今後選ばれないと思っていました。パス(レセプション)でチームを落ち着かせ、日本のバレーをつくり直すのが役割だと思っているので」
目覚ましい進化を遂げながらも、富田はどこまでも謙虚だ。
「自分は春高に出ているわけでもないし、スター選手ではありません。コツコツやることでしか成長できないと思っているので、地道に取り組んできました」
ファンや仲間からも「仕事人」と称される富田の胸の奥には、静かな覚悟が宿っていた。
「攻撃を強化した」という富田(手前)のアタック
ベンチから届く主将の声
そして「家族」となったチーム
そんな富田の背中を、誰よりも力強く押していたのが、富田と交代してベンチに下がった石川主将だった。
「今シーズンは自分と(石川)祐希さんが代わることが多くて。そのときもベンチから『スパイクはこうしたほうがいいよ』などと声をかけてくれるので、とても力になりますし、自信を持ってプレーできました。元々キャプテンシーのある方ですが、今シーズンはより頼もしさを感じています」 そのなかでも、富田の心に最も強く残っているのがVNL準々決勝の中国戦だ。
「自分が途中から出たとき、祐希さんは(ベンチに下がって)悔しいはずなのに、セット間に『こうしていけば大丈夫だよ』と安心できる声をかけてくれたことは、ほんとうに印象に残っています」
コートの外にいても勝利を渇望し、仲間を信じて言葉を託す主将と、その期待を背負ってコートで結果を出す交代選手。ティリ監督体制2年目となった今年、富田は今の代表チームを「先輩・後輩ではなく、家族のようになんでも話せる仲間」と表現する。その深まった結束力は、コートの内外で互いを支え合う2人の姿にもしっかりと息づいている。
VNLで首を痛めたこともあり、合宿中は別メニューで調整をしていた石川祐希主将
「VNLで負けたことは悔しいですが、引きずっていても仕方がない。今年はほんとうにアジア選手権で勝てばいいので、そこに向けてみんなでひたすら前を向いてやっていきたい」
薩摩川内のハードな合宿を乗り越え、日本代表はアジアの頂点へと挑む準備を整えている。8月25日(火)に東京で行われる国際親善試合(対ブラジル)を終えると、アジア選手権の開幕はもう目前。コートに立つ者も、ベンチから支える者も、全員の思いを一つにして、オリンピックの切符を獲りにいく。
「家族のよう」と富田が語った日本代表のメンバーたちと
取材・文/フジサキヒロ
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