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豊田充浩総監督(東山高)新体制1年目を終えて 「東山が強くなるために」立場を変えても衰えぬ情熱【黒鷲旗出場高校生チーム】

  • 学生
  • 2023.04.29

 

昨年度、豊田充浩監督から松永理生コーチに指揮権を託し、新体制で臨んだ東山高(京都)。豊田総監督の目に、その1年はどう映ったのか。役割が変わっても、貫いた思いがあった

 

今年の春高はベスト4で敗戦。豊田総監督(左)は涙を流す選手たちを労った

 

エネルギーを生む生粋の負けず嫌い

 

 松永は胸騒ぎがした。

 2022年1月。1回戦敗退に終わった春高から、数日後の出来事だった。当時コーチを務めていた松永は、豊田監督に食事に誘われた。高校時代は監督と選手、そして2019年度からは母校の監督とコーチとして師弟関係を築く2人。

「先生、何飲まれますか?」

 松永からの何気ない問いに、豊田監督は「いや、すでに飲んできたから」と言った。

 松永の「いつもと違うな」という違和感は的中する。豊田監督は切り出した。

 「いろいろ考えたんだけど、理生、監督やらないか?」

 

 1996年から指揮を執った豊田監督が総監督、そして松永コーチが監督に。東山高にとって、2022年度は大きな転換期だった。

 

 全国大会の初陣となったインターハイでは初優勝。だが、三冠を狙ったその後の大会では、国体で5位、そして春高はベスト4と頂点を逃した。

 集大成の舞台では、かねてから対戦を熱望していた国体王者・鎮西高(熊本)とシーズン初対戦。がっぷり四つでフルセットまでもつれ込んだが、最後は相手エースに押しきられた。豊田総監督は「残念ながら鎮西には負けましたが、出しきった感はあります」と言いながらも、言葉に熱がこもる。

 「ただやっぱり、僕らは日本一を狙っているチームなので。京都に帰ってきて、残念やったと言ってくれる人も多いですが、確かにその通り。ぜひやりたかった鎮西との戦いに負けてしまって、やっぱり悔しさっちゅうのは残っていますね」

 

昨年のインターハイを制し、神山義弘トレーナー(左)、松永監督(右)と笑顔の豊田総監督。選手たちと三冠を目指したが、その後は悔しい結果に終わった

 

 そう語る表情はまさに勝負師の顔だ。

 立場とともに、試合中の定位置は変わった。選手たちの背中を押すのは、サイドライン際ではなく、ベンチから。「レシーブ合戦になったときは今でもすごく燃えますね。でも、そのたびに『あかん、あかん。座っとかな』ってなります」と笑うが、変わらないものもある。

 プレーに緩みが見られれば、声で締め直す。ときに選手たちを発奮させる豊田総監督と、中央大監督などを経て戦術的な指示に長ける松永監督。明確な役割分担ができているのは、松永監督への信頼が大きいからこそだろう。

 「松永監督は柔軟性があります。采配を見ながら、『あぁ、ここでタイムを取るんや』とか『ここでメンバーチェンジするんや』と考えたり。同じ指導者として勉強じゃないですけど、そういう角度で見ているところもあって。おもしろいですね」

 

 

試合中の定位置は変わったが、役割は同じ

 

 常に自身の役割を追求することができるのは「とにかく負けず嫌いで、勝つことへの執着心しかないので。すべては勝ちたいからです」という信念があるから。

 そのアクションの一つが選手へのサポートで、コンディションが整わない選手がいれば、足しげく治療に連れて行った。昨年はインターハイ府予選や近畿大会に出場していなかった田中拓磨(現・大阪商大1年)を乗せ、和歌山まで通ったことも。田中はインターハイ本戦で復帰すると、レギュラーとして高い決定率を残した。「いいドクターに出会ってね。自分が運転して、復活して活躍してくれたら、やっぱりものすごくうれしいですよね」と表情はゆるむ。

 「結局、僕次第じゃないですか。ほかの人に言われてやることではないと思っています。やれることは自分でどんどん見つけてやりたい。それが、東山が強くなるためになると思っているので」

 

OBに力をもらうも特別視はなし

 

 イタリア・セリエAで活躍する髙橋藍(日本体大4年、パドヴァ)ら、OBたちの活躍も原動力の一つだ。2023年度の日本代表には、髙橋、富田将馬(東レ)、麻野堅斗(早稲田大1年)が名を連ねた。「それは励みになりますね。先輩たちが上のステージにいけばいくほど、僕たちもああなりたいと思う選手もいますし」と言うが、力になるのは髙橋たちだけではない。

 「華やかで目立つOBもいるけど、そうじゃない卒業生もみんな教え子。(髙橋)藍だから、麻野だから、と特別視はまったくないので。ここで汗水を垂らして頑張ってくれた子たちに対しては、みんな同じ目線で見ています」

 

 

2019年度の春高では、髙橋(1列目中央)を擁して初の頂点に

 

 先輩たちに続け、と全国中学選抜の齋藤航、静岡県選抜でJOC杯準優勝に貢献した中西煌生など楽しみなルーキーが門をたたいた。そして、今シーズンまで大分三好ヴァイセアドラーでリベロとしてプレーした小川峻宗がコーチに就任。2年目のシーズンも「自分ができることを全力でやって、東山が勝つためにやりたいと思っているだけなので」とブレない。

 

 取材を終えると、豊田総監督は体育館に向かった。ゆっくりと体をほぐし、壁打ちを始める。東山高の堅守を磨き上げた、伝統の球出しに腕が鳴る。

 「やりだしたら止まらないです。パッと見たらあっち(反対のコート)はもう終わってんな、ということもあります(笑) 子どもたちを鍛えるのは楽しいですね」

 立場が変わっても、情熱が絶えることはない。むしろ、燃える一方だ。

 

 

球出しに力が入る豊田総監督

 

豊田充浩

とよだ・みつひろ

1968年8月7日生まれ/東山高→日本体大

1996年から監督を務め、髙橋藍を擁した2019年度は国体、春高で初優勝に導いた。2022年度から総監督としてチームをまとめる

 

文/田中風太(編集部)

写真/山岡邦彦、中川和泉(NBP)、編集部

 

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