パリそしてミラノでレベルアップを果たし新たな自分で世界に挑戦 リベロ福留慧美<前編>
- 女子日本代表
- 2025.05.21
イタリアを舞台に大きな経験を重ねた福留
今シーズン、初めての海外リーグとなるイタリア・セリエAでプレーしたパリオリンピック代表リベロの福留慧美。パリで金メダルを獲得したイタリア代表を4人擁するなど、世界を代表する選手たちが集まるミラノで揉まれ、セリエA準優勝、欧州チャンピオンズリーグ3位という成果を残した。濃厚なイタリアでの日々から福留が得たものとは――。現地でのインタビューを前後編に分けてお届けする(取材は3月末)
「当たり前」が覆された日々
――初めてのセリエAでのシーズン。日々どんなことを感じてきましたか?
昨年9月にチームに合流したのですが、来てすぐのころは、まずボールの速さや高さに目が追いついていかなくて。拾えたときは「え? 捕れた?」と自分でもビックリしていたぐらいです(苦笑) ほぼ全員が代表選手なので、すごいなかでバレーボールができているな、って。
もちろん普通に拾えるスパイクもあるのですが、やっぱりパオラ(イタリア代表のパオラ・エゴヌ)は特別で。高さがすごくて、なおかつ下に打たずに長いコースに打ってくる。「そっからそこ?」みたいな感じです。ほかの選手もみんなブロックが高いのに、パオラはさらにその上から打ってくることもあって、自分が当たり前だと思っていたことが覆される毎日でした。
でもずっと一緒に練習していくうちに、慣れてきたところはあります。少しずつ拾えるボールが増えていって、拾えなかったら「悔しい」という気持ちに今はなっています。
――日常のレベルがかなり上がったということですね
確かに、最初のころを思えば、特別ではなくなっている感じはありますね。
トスは「高く、ネットに近づけて」
――ミラノの監督は、パリオリンピックで対戦したポーランドを率いていたステファノ・ラバリーニ監督です。どんな印象ですか?
当たり前のことをちゃんとしなかったらすぐに言われますね。1本目の質だったり、2本目のセット(トス)を「もっとネットに近づけろ」だったり、細かい部分を大事にしていると感じます。そういう細かい部分って、日本がいちばんこだわっていて、海外はそういうところはアバウトなのかなと思っていたのですが、ラバリーニ監督は厳しい。1本目はちゃんと高さをつけて、ゆっくり上げるとか、質にすごくこだわっていますね。
――1本目は高さを出して間をつくるというのはスタンダードなんですね
そうですね。しかもセッター(イタリア代表のアレッシア・オッロ)の身長が高いので、セッターが前衛のときは、1本目をネットにくっつけたらツーアタックを決められるから、ネットにつけていいよと言われて、それも最初ビックリしました。日本と同じ感覚でやっていたら、「もうちょっと(高さを)出していいよ」と言われるし、「あ、ネット越えた!」と思ったボールにも届いて、片手でクイックに上げてしまう。
トスを上げるときも、日本では少し(ネットから)離して速く、という感じですけど、とりあえず「ネットにくっつけて高く」と言われます。そうしたら高さのある選手は押し合いもできるし、上からプッシュもできるから。パオラは特に「高くてネットにくっつけてくれたらそれだけでいいから」という感じ。それが難しいんですけどね(苦笑)
それにラバリーニ監督はタイムアウト中の指示もものすごく細かい。こちらがブレイクを続けているときも、「次はサーブをここに打って」とか、ミドルブロッカーを呼んで「たぶん(攻撃は)こっちからくるから、こう動け」「コミットしろ」とか。めちゃめちゃ細かいです。
――タイムアウト中の様子を見ても、選手たちがみんな監督の言葉を聞き逃すまいとしているのがわかります。福留選手自身は1月以降、出場機会が減りましたが、出場するための課題ととらえていることはありますか?
自分よりもう1人のリベロのジュジュ(フランス代表のジュリエット・ジェラン)のほうが言葉を話せるので、周りとコミュニケーションをとったり、盛り上げたりしていてすごいなと感じています。自分はそこができていない。難しいと感じているところです。
昨年は主に日本代表のディグリベロとして国際大会を戦った
オリンピックMVPプレーヤーの素顔
――チーム内の言語はイタリア語ですか? 英語ですか?
基本的に監督は英語なのですが、感情が高ぶったときなどはイタリア語でバーッと話すので、そういうときは両方わかる選手が英語で通訳をしてくれます。と言っても、私は英語も難しいのですが。最初に比べれば、聞いて理解できることは増えましたが、話すのが難しい。
ジュジュが、最初からほんとうに私によくしてくれて。私が何か単語で言ったら、「ああ、そういうことね」とすぐに理解して、ほかの人に通訳してくれる(笑) 彼女もイタリアで初めてのシーズンなんですけど、英語がペラペラで、イタリア語も、ちょっとフランス語と似ているからわかりやすいと言っていました。日本語は全然違うから…、うらやましい。「世界の言語を一つにしてほしい!」って心から思いました(笑)
スタメンを外れてから、一度監督と話したのですが、「あなたが悪いわけではないし、先発を外れてもモチベーションを下げることなく練習を頑張っているから、これを続けてほしい」というふうに言ってもらえたので、自分の中で、スタメンじゃなくても今は練習を頑張ろうという気持ちになりましたし、出たときはリベロとして求められることをしっかりやろうと。それに、このミラノでBチームで練習していたら、常に反対のコートにパオラたちがいるわけだから、それはすごく自分のためになっていると思います。ぜいたくすぎますね(笑)
――パリオリンピックでMVPを獲得したイタリアのエース、パオラ・エゴヌ選手はどんな人ですか?
私も代表のパオラしか知らなかったから、最初は怖いイメージがめっちゃあって。でも一緒に過ごしていると、お茶目なところがあるし、日本のことがすごく好きで、日本のアニメもめちゃくちゃ見ているので、とても話しやすいです。たぶん話したら、みんな「思っていたのと違う」となると思います。音楽がなったら急に踊り出したり。
この前は、トレーニングメニューが書かれたシートの私の欄に「かわいい」って書いてくれていて(笑) そういうところもかわいくて、“女子”って感じです。アニメも恋愛ものが好きだったり、いろんなジャンルを幅広く。最近は『俺だけレベルアップな件』を見ているそうです。私からは『ダンダダン』を薦めました(笑)
世界と戦うため、ポジティブに変わるために
――福留選手が海外リーグでプレーしたいと考えるようになったきっかけは?
最初に興味を持ったのは大学生のころでした。同じバレー部で、国際学部だった先輩や後輩が、バレーに関係なく夏休みに短期留学していたのですが、それまでは人前でまったくしゃべらなかった内気な子が、1ヵ月留学しただけで、すごく自分の意見を発するようになったり、明るくなって帰ってきました。ほんとうに変わったなと、それがすごく印象的で。ポジティブに変われるのかなと、そのあたりから興味を持ち始めました。
本格的に考えるようになったのは、日本代表に選ばれて試合に出させてもらえるようになったころ。特にOQT(パリ五輪予選)がすごく大きかったですね。「海外の選手の球を拾えないと、意味ないな」とすごく感じて。海外に行けばそれが日常になるから、海外でバレーをしてみたいなと。OQTでは、試合に出て、でも拾えなくて代えられたことも結構あったので、やっぱり代表として試合に出たい、日本代表で勝ちたい、という気持ちがすごくありましたから。
インタビュー時はミラノでの出場機会が減っていたが、その後再び先発を勝ち取り、セリエAファイナルや欧州チャンピオンズリーグ準決勝、3位決定戦を先発で戦い抜き、世界最高峰を体に刻み込んだ。インタビュー後編では、イタリアでの生活や日本代表への思いについて聞いた。
(プロフィール)
ふくどめ・さとみ
ミラノ(イタリア)所属
1997年11月23日生まれ
身長162cm/最高到達点275cm
京都橘高(京都)→龍谷大→デンソー
リベロ
取材/米虫紀子
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