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SVリーグ2024-25

30年ぶりの敗北を前に、石川祐希のアタックに対してブロックの腕を引いたブラジル男子のすごみ。「あれはできない」と口をそろえた有識者と現役選手の声〔前編〕

  • 日本代表
  • 2025.07.14

 バレーボールの男子日本代表は716日(水)から千葉ポートアリーナ(千葉)でネーションズリーグ(VNL)の予選ラウンド第3週、「買取大吉 バレーボールネーションズリーグ2025 千葉大会」に臨む。ファイナルラウンド進出を懸けた4試合。いずれも相手チームは実力国ばかりだが、最難関といえるのが予選ラウンド第2週を終えて首位に立つブラジルだろう。

 

2023年のVNLでフルセットの末にブラジルを撃破した男子日本代表

 

 振り返れば2年前のネーションズで、日本はブラジルから実に公式戦で30年ぶりとなる白星を挙げた。29年ぶりの決勝トーナメント進出を果たした東京2020オリンピック以降、VNLでは銅メダル(2023年)に準優勝(24年)と輝かしい成績を収め、パリオリンピックも自力での出場権獲得、そうしてFIVBランキングでも最高2位まで上り詰めた日本にとって、このブラジルからの勝利はまぎれもなくハイライトの一つだった。

 

 2023622日。フランスで開催された予選ラウンド第2週のその試合は、日本が2セットを先取しながら、ブラジルも第3セットからセッターとミドルブロッカー2人を交代する大胆な策で反撃に成功し、フルセットにもつれ込む。最終第5セットもジュースの末に、日本が競り勝った。

 

 勝利に要した四半世紀以上の歳月に、日本とブラジルの長年の力関係と何より日本の進化に感動を覚えずにいられなかったが、この試合でほんの一瞬ではあるものの筆者が驚がくしたワンプレーがあった。

 それは最終第5セットのこと。日本が14-13で王手をかけた直後のプレーで、日本は石川祐希キャプテンがレフトからアタックに入る。2枚ブロックのインナーを抜いた打球は、惜しくもアウトになりブラジルの得点となった。この場面、よく見てみるとブラジルのブロッカー2人のうち、内側にいたミドルブロッカーのフラビオ・グアルベルトがブロックする腕を引っ込めていたのである。

 

 想像してほしい。ブラジルからすれば日本のマッチポイントのシチュエーションだ。これが決まれば30年ぶりの黒星を喫する。なおかつ、アタックを打ってきているのは世界で指折りのエースアタッカーである石川キャプテン。豪快に得意のインナーを叩き込まれる可能性もあった。

 2枚ブロックでライン(ストレート)側のブロッカーが腕を引くことはよくあるケース。なぜならブロックアウトを狙った打球がそのまま腕に当たることなくアウトになる確率も高いからだ。だが、この瞬間、腕を引いたフラビオはコートの内側。結果論であるが、その判断は石川のスパイクアウトというブラジルにとっての正解を導き出した。

 

 

死闘を繰り広げた日本とブラジル(Photo/volleyballworld)

 

 

「経験値のせめぎ合い、駆け引き、すべてが詰まっていた」と山村氏

 

 とはいえ、どんな角度から考えても、このプレーがそう簡単にできるものではないことは容易に想像できた。後日、この試合を配信で解説していた元男子日本代表の山村宏太氏に見解をうかがってみる。

「もし自分が同じ立場でブラジル側のコートに入っていたとしたら、あのプレーはできなかったと思います。誰もが、石川選手がコートに叩きつけるようなスパイクをイメージしていたはず。

 確かにブロッカー目線ですと、こちらがいい状態でブロックに跳んでいたならば、アタッカーのフォームやトスの状況によっては得意のコースを読みきって仕掛けるように腕を出すことはあります。ですが、手を引くことはそれほどないですね。ましてやライン側ではなく、センターエリアのミドルブロッカーが、というのはレアです。

 それを、あの場面で繰り出すという判断。ミドルブロッカーとしての経験の豊かさから発揮できたものかもしれませんし、なにより、それを実行するにも勇気がいりますから。それだけ自分の判断に自信を持っているということでしょう」

 

 現役時代は日本屈指の長身ミドルブロッカーとして名を馳せた山村氏だが、「自分は腕の出し引きで駆け引きをするタイプではなかったので」と謙遜しつつ、「経験値のせめぎ合い、駆け引き。そのすべてがあの一瞬に詰まっていたと感じます」とうなっていた。

 

 

この試合ではチーム最多27得点をマークした石川。マッチポイントからボールを託されたが…(Photo/volleyballworld)

 

 

「あれは僕も『マジか』と思って見ていました」(小野寺)

 

 その決断と勇気に圧倒されたのは現役選手も同じだった。ブラジル戦後の国内合宿の最中、男子日本代表のミドルブロッカー、小野寺太志に聞いてみる。ブロッカーとして、あの場面で腕を引けますか?

「僕は無理っス(笑)」

 即答だった。

 

「アタッカーによりますし、ブロックする側が何枚敷くかにもよると思いますが、基本的には腕を引かずに前に出すでしょう。あのとき、ブラジルは2枚ブロックだったので、(石川)祐希がインナーに抜くかな、とは思っていました。

 おそらくフラビオ選手目線だと、長いコースに打ってくるように見えたのでしょう。とはいえ、それでアウトになるかはわからないですし、腕を引いて結果的にアウトになった。あの一瞬に、高度な駆け引きがあったと想像しています。

 ただ、それなりの経験といいますか…、大舞台で高いレベルの中でずっと戦ってきた選手たちだからこそ、ああいう感覚が磨かれると思うので。あれは僕も『マジか』と思って見ていました。その選択肢があったとしても、あのシチュエーションだと僕は恐らくその決断をできない。自分たちも腕を引いてブロックアウトを回避するアクションは練習から取り入れていますが、あの場面で、というのは僕自身にはまだできないと思います」

 

 その判断が、ともすれば命取りになる。しかも繰り返すが、バレーボール王国からすればその威信が揺らぐ、30年ぶりの黒星である。そこに、小野寺は脅威を感じていた。

「それこそ日本に対してずっと負けてなかったわけですし、いくら僕たち日本代表が上り調子にあったとはいえ、おそらく対等とまでは感じてなかったと思うんです。僕たちもブラジルに対しては挑戦し続けているだけですから。

 たとえ追い込まれてもなお、あれができる。ブラジル代表にはまだまだ余裕があるんだろうな、と思いましたね、正直」

 

 では、あのとき空中戦を演じた石川とフラビオはどんな胸中だったのだろうか。

≪後編に続く≫

 

 

敗戦にうなだれるブラジル。けれども小野寺は脅威を感じずにはいられなかった(Photo/volleyballworld)

 

(文/坂口功将)

 

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