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「あれが世界トップ」と石川祐希が語ったブラジル代表ミドルブロッカーの一瞬の判断。30年ぶりの敗北を前に、なぜブロックする腕を引けたのか〔後編〕

これまでも接戦を繰り広げてきたブラジルから奪った念願の勝利を全身で喜んだ石川(Photo/volleyballworld)

 今から振り返ること2年、2023年のネーションズリーグ(VNL)男子で日本はブラジルから実に公式戦では30年ぶりとなる金星をあげた。フルセットにもつれたその試合の最終第5セット、日本が14-13と王手をかけた場面でブラジルのミドルブロッカー、フラビオ・グアルベルトは石川のアタックに対して、ブロックの腕を引いてアウトを勝ち取った。それも2枚ブロックの内側で跳んだにもかかわらず、である。元男子日本代表の山村宏太氏、そして現役の日本代表である小野寺太志の両ミドルブロッカーが「あれはできない」と感嘆を漏らしたワンプレー。あの瞬間を、アタックを打った石川、ブロックに入ったフラビオの当事者たちに振り返ってもらった。

 

前編はこちら

 

「あの場面でブロックの腕を引くとは考えにくい。さすがだな、と」(石川)

 

 絶体絶命の場面で相手エースが打ってきたインナーへのアタックに対して、ブロックの腕を引っ込める。あの日本対ブラジルの一戦で解説を務めた山村氏は、このワンシーンに詰まっていた駆け引きの妙をこう語った。

「おそらく石川選手はあそこで世界レベルのブロックがくるとわかっていたからこそ、ワンタッチか、もしくは長いコースに打つことで、運がよければコートに入る、悪くてもブロックアウトにつながる、そんな選択肢を持ったスパイクを繰り出したと思うんです。それを相手のフラビオ選手も読みきって腕を引いたのかもしれません」

 

 とはいえ、これはあくまでも想像にすぎなかった。そこにどんな駆け引きがあったのか、それは当事者にしかわからない。

 ならば。このブラジル戦の約1週間後、VNLの予選ラウンド第3週にむけて出国する際に、石川キャプテンに聞いてみた。あの場面について――。

「彼(フラビオ)が腕を出したままだったなら間違いなくワンタッチはしていた、という可能性はあります。かといって、僕が相手の指先を狙って打った、という感覚ではなかったです」

 

 石川が明かすに、あのアタックに入った瞬間、考えていたことはただ一つ。「長いコースに打つ」だった。

「あのときは前提として『ブロックに当てて出す』という考えは持っておらず、とにかく『強く、長いコースに打ってコート内にボールを収める』とだけ考えて打ちにいきました。ただ、そうして長く打ちにいったボールの軌道が少しずれてしまって、外に出てしまった。もちろんフラビオ選手が腕を引いてきたことに関しては、相手のほうがうわてだと思いますし、何より、あの場面で僕が失点したという事実が残りました。おそらく他チームも見ていたでしょうから、今後あのような場面でブロックの腕を引くことが想定されます。なので、たとえ相手が腕を引こうが引くまいが、アウトにせずボールを必ずコート内の収めることが重要になってくるととらえています。

 あの場面でブロックの手を引くとは考えにくいですから、その点はさすがだと感じましたね」

 

 

これまでも接戦を繰り広げてきたブラジルから奪った念願の勝利を全身で喜んだ石川(Photo/volleyballworld)

 

 

「ときにはリスクを負う必要がある。常にやるわけではありませんよ?」(フラビオ)

 

 そのフラビオはブラジル代表でも2019年から本格的に台頭すると、不動のミドルブロッカーとして君臨。攻守で高いクオリティーを備え、世界最高峰リーグと称されるイタリア・セリエAでもその名を轟かせている。

 

 あの場面でブロックの腕をなぜ引いたのか。本人に直接、聞くことができたのはその1年後、2024年のVNLで来日したときだった。試合を終えて会場をあとにする直前、本人を直撃してみる。すると「あぁ、あのときのことかい」とパッとした表情を浮かべて自身の考えを語ってくれた。

「現在のバレーボールはとてもレベルが高くて、それこそ指先を狙ってでもブロックアウトをとる、そんなスキルが求められますよね。それはブロックする側としても同じことが言えます。腕をどう出し引きするか、どこにどう出すか、その瞬時の判断が求められる。つまり、こちらもブロックに関して、たくさんのオプションを持っているわけです」

 

 とはいえ、腕を引いたことで石川に強烈なインナースパイクを“かちこまれていた”可能性だって十分ありえた。しかも、それは即、黒星に直結するもの。怖さはなかったのだろうか?

「そうですね(笑) ですが、ときにはリスクを負う必要があります。高く跳びながら、相手がどんなスパイクを打ってくるかを見極めて、いかにディフェンスをするか。ただ、あれはリスクのあるプレーでしたね。常にやるわけではありませんよ?」

 

 むろん、これは結果論である。山村氏は、判断してもなお実行するには「勇気がいる」と称賛した。それが敗因にもなりえたわけだが、しかしリスクを冒してでも勇気を振り絞って腕を引いたことで、チームに得点をもたらしたのが事実だ。

 

 石川に投げかけてみる。あれが世界トップレベルといっても?

「間違いないと思います。やはりペルージャでもプレーして(当時)、世界のトップで戦っている選手だと感じました」

 

 あれから2年の間に、石川はそのペルージャに入団し、対するフラビオはトレンティーノへ移籍。チームメートではなく敵どうしの関係は続き、果たして2024-25シーズンはトレンティーノがリーグタイトルを獲得した。

 そして今年の代表活動でフラビオはキャプテンマークを携えて来日。その千葉大会では石川もキャプテンとしてチームに合流する。

 

 そこで繰り広げられるであろうネット上の空中戦はその一瞬一瞬が、世界トップレベルの攻防なのである。

 

※フラビオのキャプテン登録は予選ラウンド第2週時点。千葉大会では原稿執筆時未定

 

 

バレーボール王国の誇りを胸にプレーするフラビオ。まぎれもなく世界トップレベルのミドルブロッカーだ(Photo/volleyballworld)

 

(文/坂口功将)

 

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■30年ぶりの敗北を前に、石川祐希のアタックに対してブロックの腕を引いたブラジル男子のすごみ。「あれはできない」と口をそろえた有識者と現役選手の声〔前編〕

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