パリそしてミラノでレベルアップを果たし 新たな自分で世界に挑戦 リベロ福留慧美<後編>
- 女子日本代表
- 2025.05.22
異国の地で、コミュニケーション力も向上したという福留
今シーズン、初めての海外リーグとなるイタリア・セリエAでプレーしたパリオリンピック代表リベロの福留慧美。パリで金メダルを獲得したイタリア代表を4人擁するなど、世界を代表する選手たちが集まるミラノで揉まれ、セリエA準優勝、欧州チャンピオンズリーグ3位という成果を残した。濃厚なイタリアでの日々から福留が得たものとは――。現地でのインタビュー後編をお届けする(取材は3月末)
スポーツ観戦の文化を実感
――レギュラーシーズンのミラノ対コネリアーノの試合には、1万人以上の観客が集まったそうですね
1万2000人以上入りました。あの試合はもう、すごすぎて鳥肌が立ちました。震えました。ものすごく上のほうまで人がいるのが見えて、「すご! 人めっちゃいる!」って。OQT(パリ五輪予選)のときのような緊張のしかたでした。あのときはいつもとは違う特に大きなアリーナ(ウニポル・フォルム)で行われたのですが、でもふだんの試合もお客さんがたくさん入るので、毎試合が国際大会みたいな雰囲気です。「わー!」っと気持ちが上がります。
――5000人以上入ることが珍しくないようですね。日本のSVリーグでは女子の試合の集客に苦戦しているのですが、セリエAでは女子の試合もそれだけ多くの観客が集まる。どのような違いがあると感じますか?
こっちは、日本で言えば野球やサッカーを見にいくみたいな感覚なのかなと感じます。ファンの人の応援の仕方も、サッカーのように太鼓を叩いたり。スポーツ愛が強い人だとか、スポーツ観戦が好きな人が多いから、バレーボールを応援しにきている、スポーツを見にきている、という感じではないでしょうか。日本では、今男子バレーがとても人気があってお客さんがたくさん入っていると思いますが、どちらかというと選手を見にきている人が多いのかなと。アイドルのような感じで。
こちらは平日でもお客さんがたくさん入るので、それもすごいなと思います。日常の一部になっているというか。日本もそういう感覚で来てもらえるようになれば、変わるのかなという感じはします。難しいかもしれないですけど。
イタリア生活、語学ができればもっと楽しい?
――イタリア生活は楽しめていますか?
「楽しい?」って聞かれたら、別に楽しくはない、かな(苦笑) 最近はコミュニケーションもちょっととれるようになってきて、拾えるボールも増えてきているから、そういうときは楽しいな、来てよかったな、と思うのですが、ずっと1人なので、寂しいなと思うこともあります。でも「来てよかったな」とはすっごく思います。
――イタリアでの生活で驚いたことや苦労したことはありましたか?
お風呂がないのはつらいです(苦笑) 私が住んでいるところはアパートというより、長期滞在者用のホテルみたいなところなのですが、シャワーしかないし、しかも1人がギリギリ入れるぐらいのスペースなので、ガンと当たったりして、「もう!」ってなりますね、疲れているときは(苦笑) 「お風呂入りたーい!」となっています。(石川)真佑と「スパ行こうよ!」という話をしているんですけど、なかなかオフが合わなくて、一度も行けていないんです。水回りというか、そのあたりは特に、日本の設備ってよすぎるなーとあらためて感じます。
あと、物価が高いのはビックリします。最初のころはスーパーとかで、何を買うにも「高いかな?」と日本円でいくらになるか調べていましたけど、最近はもう計算しないようにしています。「計算していたら何も買えへん!」と思って(苦笑)
――物価は高いですね。しかもコーヒーよりも水のほうが高かったり
水はほんとうに高い。気軽に外食もできないです。マクドナルドで普通にセットを頼んでも8ユーロぐらいはするので、1000円を超えてしまいますから。
――オフの時間はどんなふうに過ごしているのですか?
オフがセナ(関菜々巳)や真佑と重なったら一緒に出かけたりしますけど、1人だったらスーパーに行くぐらいです。休みの日はいつものスーパーではなくて、日本のイオンみたいな感じの、服屋さんもあって、大きなスーパーも入っているところがあるので、ぶらぶらしながら服を見て、フードコートでピザやジェラートを食べる、みたいな過ごし方です。最近はそのジェラート屋さんにクレープもあるのが判明したので、クレープを食べて帰るのが週一の楽しみです(笑)
――石川選手や関選手とはよく会っているのですか?
休みが合えば会いますし、真佑のいるノヴァーラは車で1時間ぐらいなので、3回ぐらい試合を見に行きました。この間はセナのチームが3日間ぐらい休みだったので、こっちに来てくれて、ミラノでごはんを食べたり、買い物をしたり。
――語学の勉強もしているんですか?
シーズンの途中まではチームがオンラインでの英会話レッスンをつけてくれていたのですが、後半は試合も増えてきたのでなくなって。自分でYouTubeや映画を見たりして、少しずつという感じです。こちらに来る前から、単語は大事だと言われたので、単語はちょっと勉強してきたんですけど、セナに比べたら全然。比べないでください(笑) セナはもともと賢いから。レベルが違います。
一緒に買い物に行ったときは、「ちょっとセナ、これ聞いて聞いて!」と店員さんに聞いてもらったりしています。セナの英語を聞いていたら、「あ、意外とこんな簡単な文章で聞けるんや」と思ったりするんですけど、自分ではパッと出てこないんです(苦笑)
反応の速さは折り紙付き。今季の活躍にも期待がかかる
世界の強豪との対戦を楽しみに
――シーズン後は日本代表の活動が始まりますが、イタリアでの経験をどんなふうに生かしたいですか?
こっちに来たからこそ、常にパオラ(・エゴヌ)だとか、力のある選手のボールを受けられているので、代表でも、昨年より自信を持ってそういう人たちと戦って、拾えるボールが増えていればいいなと。
昨シーズン、真佑が初めてイタリアを経験して帰ってきて、代表で試合をしたあと、「感じ方どう?」って聞いたんですよ。そうしたら、やっぱりパオラと対戦したりして、相手を知っているから、「思ったより“私大丈夫”って気持ちでいけた」と話していたんです。「この人の球、受けたことあるから大丈夫」とか、「このブロック高いけどいける」というふうに思ったって。だから今年の代表でまた海外のチームと対戦するとき、自分はどういう気持ちになれるんやろう? というのはちょっと楽しみです。
それと、やはりこっちの人は自分の意見をみんなしっかり持っていて、それをパッと言える。それはすごく大事だなと感じました。日本人ってどうしても遠慮したり、言えないことが多いんですけど。今、自分は英語を話せないから、自分の意見を言いたくてもなかなか言えないところもあるのですが、日本に帰ったら、そういうところは言えるようにしたいと思っています。昨年よりももっと密にコミュニケーションを自分からとりにいって、自分の意見も言えたらいいなと。今まで代表では、自分の意見というよりは、ほかの人の意見を聞いたほうがいいかなという感じで、自分から発言することはなかったのですが、やっぱりそこは言わないとな、と思っています。
――ミラノの応援団には「ダイソン」と呼ばれているそうですね
そうなんです(笑) 自分は知らなかったのですが、ミラノのファンの人が考えてくれたみたいで。ダイソンの掃除機は高機能で何でも吸い込む。で、福留は何でも拾うからダイソンだ、となったらしくて。ホームゲームのときに私が拾ったら、MCの人も「ダイソンフクドメ」か「ダイソンサトミ」と言っていたみたいで。私は試合中だから聞こえていなかったんですけど。この間パオラにも「ダイソン」と言われました。「サットン」(日本でのニックネーム)じゃなくなって、「ダイソン」になりました。「ダイソン」って呼んでください(笑)
欧州チャンピオンズリーグを終えて帰国した福留は、代表合宿に合流した。再び日本代表として海外チームに対峙したとき、どんな“新しい自分”を感じられるのか…。福留自身がいちばん、それを楽しみにしている。
(プロフィール)
ふくどめ・さとみ
ミラノ(イタリア)所属
1997年11月23日生まれ
身長162cm/最高到達点275cm
京都橘高(京都)→龍谷大→デンソー
リベロ
取材/米虫紀子
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