「普通のおじさん」で、おごらない人 辻本瑠奈大阪B元通訳が見たティリ・ロラン監督
- SV男子
- 2025.06.11
ティリ・ロラン新監督が率いる男子日本代表は、6月11日(水)、中国と対戦するネーションズリーグ2025で初陣を迎える。パナソニックパンサーズ、そして大阪ブルテオンで計5シーズン、ティリ監督を通訳として支えた辻本瑠奈大阪B元通訳が、ティリ監督にメッセージを送った
辻本通訳(左)とティリ監督。ファン感謝デー後に行われたシーズン報告会にて
フランス代表監督ではなく
「あのお父さん」として
5月18日(日)、大阪Bのアジアの頂点を目指す戦いが終わった。バレーボールアジアチャンピオンズリーグ男子ジャパン2025で準優勝。それは、ティリ監督との二人三脚の日々の終わりも意味していた。最後の会見では、ティリ監督へこの5年間を総括する質問が上がった。「非常にエンジョイして、ほんとうに早かった…」。そう訳していると、辻本通訳はティリ監督に肩をポンっとたたかれた。思わぬ労いに、辻本通訳は「ちょっと待って!」と涙。そしてその翌日の「2024-25 OSAKA BLUTEON CLUB感謝デー」でも、熱い思いは込み上げた。
クラブのリリースには、「まるでジェットコースターのような日々でしたが、ティリさんと共にこの旅を歩めたことを心からうれしく思います」とコメント。ファンクラブイベント後のインタビューでも、またも涙腺は緩んだ。この5年間は、辻本通訳にとってもかけがえのない日々だった。
「感謝の気持ちでいっぱいです。でも、悲しい気持ちもありますが、このチームで5年間もできたことは感謝の気持ちしかなくて。めっちゃ楽しかったです! 皆さんにもこうやってお会いすることができて…、やばいやばい、また泣いちゃう(笑)
ティリさんと初めて話したのはビデオ電話でした。そのときに見たことある気がする、と思って調べてみたら、息子さん(ケビン・ティリ)が地元の大学(カリフォルニア大アーバイン校)に通っていて。自分は中学か高校のときに息子さんの試合を見ていて、ティリさんと息子さんがそっくりなのですぐにわかりました。その後、自分も同じ大学に通ったので、ほんとうにすごい偶然だなと感じました。
当時はティリさんがフランス代表の監督をしていることを知らなくて、最初は「あの息子さんのお父さん」という印象です(笑) 穏やかで、ふざけるときもあって、めっちゃ話しやすい。ほんとうにただの…、ただのおじさん。これ、言っていいのかな? 失礼かな?(笑)
アジアチャンピオンズリーグ男子ジャパン2025が最後の戦いに
ファイナルで負けたり、うまくいかないときもありましたが、ティリさんはそんなに引きずる人ではありませんでした。何がダメだったのかを常に考えて、次の大会のために精いっぱい頑張ろう、という感じでした。
悔しいこともありましたが、このチームは楽しいときのほうが多かったです。試合の思い出ももちろんありますが、3年前くらいにはチームでラフティングをしに行って、みんなで泊まって楽しい時間を過ごしたり。スタッフのみんなでティリさんの家に行って、ラクレットというフランスの料理をいつもごちそうしてもらいました。みんなで食事をする時間はほんとうに楽しかったです。
ティリさんは京都が大好きで、食事をしているときによく写真を見せてもらいました。ティリさんと奥さんのキャロラインさんは自分たちだけで行動します。オフがあったらすぐどこかに行っていて、特にお手伝いすることはなく、お二人は自由に行動していました(笑)
知らなかったチームが
居心地のいい場所に
私の父と母は日本人ですが、父がアメリカに来て、そこに母も連れてきて。自分と姉はアメリカで生まれ育ちました。バレーボールは12年間、大学までやっていて、ポジションはリベロでした。
大学を卒業して日本に来たのは、バレー関係の友達のお母さんが東レ(現・東レ滋賀)とつながりがあって、「通訳の仕事があるんだけど、興味はない?」と聞かれたからです。それから2年を経てパナ(パナソニックパンサーズ〔現・大阪B〕)に入ることになるのですが、正直、自分はパナのことを何も知らなくて(笑) 東レの選手たちが「パナに行くの?」と騒いでくれて、「すごいチームなんだな」と感じました。
ファン感謝デーにて、ティリ監督(右)から花束を渡される辻本通訳。選手たちにも愛されたコンビだった
でも、少し覚えているのは、東レの1年目で優勝した(2019年の)黒鷲旗。女子の次の試合がサントリーとパナソニックの決勝だったんです。当時はそれがパナだとは認識していませんでしたが、そのときに印象的なことがありました。パナが負けてしまうと、クビ(ミハウ・クビアク)がキレて! ボールが中央体育館(Asueアリーナ大阪)の天井に当たるぐらい、ドーンと蹴りました(笑) それで、「おおーっ」と思ったのを覚えています(笑)
ほんとうにそれぐらいしか記憶がなく、初めてパナに来たときに、清水(邦広)選手のことも知りませんでした。だから、マネジャーの(山本)拓矢さんに「清水選手って知ってる?」と言われて、「見たことがあるぐらいです」と言いました(笑)
パナでの1年目はとにかく自分のことで必死。東レでは(ヤナ・クランの通訳を務めており)日本語を英語に訳すことが多かったですが、ここではそれが逆になりました。ティリさんの考えを選手たちに伝える、英語を日本語に訳す立場になりましたが、自分はアメリカ人で日本語がそこまでできるというわけではなくて。村島(陽介、チーフアスレティックトレーナー)さん、行武(広貴、元アナリスト)さんは英語をしゃべれるので、特に緊張しました。
「間違えたら何か言われるかな」と思うこともありましたが、そのお二人に「自分らしくやっていいよ」と言われて。どうやって説明すればいいかを聞くこともできたり、お二人の存在はほんとうに大きかったです! 皆さん温かい目で見てくださって、自分らしく、気楽にできたのがありがたかった。通訳ですが、自分の意見を気楽に言える環境がとても楽しくて。試合中の喜び方は、きっとアメリカ人の部分が出ていたんだと思います(笑)
2021年の東京2020オリンピックでは、準々決勝でクビがいるポーランドと、ティリさんのフランスが試合をしました。どっちを応援しようか、と思って見ていたら、フランスが勝って。最終的には優勝して「すごいな」と思っていましたが、日本に戻ってくると何も変わらず、ティリさんは普通のおじさんでした(笑) ほんとうに、オリンピックで金メダルを取ったことを忘れるぐらい。でも、それがティリさんらしくて、「俺は金メダルを取った監督だ」という感じがしないのが素晴らしいところだと思います。
ティリ監督(左)は男子日本代表監督として新たな道へ
ティリさんには日本代表の監督としてぜひロサンゼルスオリンピックでメダルを取ってほしいです。ロスは私の地元なので、そこでメダルを取ってくれればめっちゃうれしいですし、この選手たちがそこで戦っていたら、ますます泣きますね(笑) これからもバレーの世界にいるので、日本代表を身近で見られることを楽しみにしています!」
取材/田中風太(編集部)
写真/石塚康隆(NBP)、編集部
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