クイックに4枚攻撃「エースバレー」の鎮西高が変わった⁉ 宮迫竜司コーチが語るインターハイ優勝への道【インタビュー前編】
- 高校生
- 2025.09.11
島根県を舞台に7月28日(月)~8月1日(金)に行われたインターハイ(男子)で、4年ぶりの頂点に輝いた鎮西高(熊本)。就任51年目の畑野久雄監督を支えてきた宮迫竜司コーチによるインタビュー前編をお届けする。全員が全国中学生選抜に選ばれた経験を持つスタメンのスパイカーたちが、クイックを絡めた多彩な攻撃を披露。伝統の「エースバレー」とまた違ったスタイルを見せた背景とは
宮迫竜司コーチ(鎮西高)
――畑野監督は「勝てるとは思っていなかった」と語っていましたが、宮迫コーチはいかがですか?
畑野先生(久雄監督)は、島根は鎮西として初めて優勝した場所(1995年)で、畑野先生が現役のときも優勝したことがあると言っていました。そういった巡り合わせもあって優勝するのかなと思っていました。
――大会前にはセッターの福田空キャプテン、アウトサイドヒッターの小島涼晴選手がケガでスタメンを外れました
福田と小島を入れた九州総体(6月の全九州高等学校体育大会。決勝では東福岡高〔福岡〕に25-16、25-14で勝利)の内容がよすぎましたが、その2人が出ないという緊急事態になりました。でも、核になる選手はいるのである程度戦えはするだろうという感覚はありました。
今年の春高が終わってから、パイプ攻撃やシャー(ライトのバックアタック)のテンポを早くしていて、福田の代わりとなる木永(青空)がそれを上げられるのかなと思っていましたが、思ったよりも上げていたこともよかったです。
――大会の事前合宿では、木永選手がかなりトス練習をしたそうですね
福田に付き合ってもらって、事前合宿では木永の上げ込みをしました。インターハイの3日、4日前からノルマを課して「毎日上げ込みをしなさい」と言いました。これは水町(泰杜〔現・ウルフドッグス名古屋〕)が2年のときのセッターの前田澪にもさせた練習です。大会は緊張しますが、事前に自分自身で追い込む練習をすることで、本番では「これだけ上げ込んだから大丈夫だ」という自信が湧くパターンもあるんですよね。
――試合になると、木永選手は徐々に落ち着いたプレーを見せました
でも、東洋戦(東京、決勝トーナメント2回戦)は顔面蒼白。それで畑野先生はしっかりしろと。自分もその気持ちでした。ただ、試合の1、2日前にはスパイカー陣にも指導していて。西原(涼瑛)や岩下(将大)、一ノ瀬(漣)たちに、「お前たちがトスに対していちいち顔に出して打ってやらんから、木永が不安なんやろ。そろそろどんなトスも打ってやれよ」と言いました。
――岩下選手をはじめ、木永選手を鼓舞しながら点を決めている印象がありました。準決勝の東福岡戦以外はセットを落とさず決勝に進みましたね
東北(高〔宮城〕)に勝ってベスト4に入った瞬間に、選手には「去年と今年のベスト4は違うからな」と言ったんです。去年はベスト4に入ってよかったという雰囲気があったけど、今年は優勝しないといけないベスト4。練習から、「またベスト4がいいと?」とか「また(昨年度の春高のように)ベスト8でいいと?」とずっと言っていて、ここからが勝負という気持ちでした。
準決勝のヒガシ(東福岡高)とは九州大会で3回戦っていて、その3回目が福田と小島が出てあまりにも内容がよかった。今回は向こうは開き直ってチャレンジャーの気持ちでくると思っていたので、ああいった展開(フルセットの末に勝利)になるのは予想できていました。
木永青空(鎮西高)
――接戦を制して決勝の市立尼崎高(兵庫)へ。第1、第2セットは西原選手のクイックでものにするなど、木永選手のトスワークも光りました
5セットマッチだったので、木永には西原をどんどん使っていいという話をしていました。
今年は周りからトスが散っていると言われますが、相手の弱い部分に対して、強いところから勝負する。今年は一人一人の個人技がある程度あるから、そうなっているのではないかと思います。
鎮西はよくエース中心のバレーと言われますが、相手のブロックシステムと鎮西のエースが対峙して、個人技が上ならエースの本数が増えるのは自然ですよね。今年の鎮西は、それぞれの選手が相手のブロックより上回っているところがいつもよりあるから、相手より力が上のところから攻める。エース以外の本数が増えるのは当たり前のことだと思います。
逆に単純に「トスを散らせ」と言っても、例えばこちらの個の力が弱い部分から攻撃すれば点を失ってしまう確率は高いですよね。状況に応じてどこからがいちばん点が決まりやすいかという確率の話だと思います。
――今まで「エースバレー」と言われていたのは、それだけエースで点を取れる確率が高かったということですね
ほかにも個人技の高いスパイカーがいるのであれば、それはトスを散らしたほうがいいですよね。今回はある程度打力のあるスパイカーがいて、それが相手の個人技より上回っているところがいつもより多いから、トスが散っているように感じられるのではないでしょうか。個の力があるスパイカーがいれば、このバレーも選択肢にはある、ということです。
――バックアタックも含め、バレー自体のスピードが上がっているのもこれまでとの違いだと感じます
今年の春高の東亜学園(東京)戦がきっかけです。サイドのアタッカー陣がまだ全国で勝たせられるだけの力がない状態で、個人技が足りず、ブロックに2枚、3枚張られたときに打ち抜ける力はありませんでした。このままではダメだということで、少しテンポを速くしたほうががいいのかなという考えがあって、そうすることでブロックが1.5枚や1枚になる確率が増えました。
でも、そのバレーをするならスパイカーはなおさらちゃんと打たないとダメだし、ミスをしていたらそのバレーをしても意味がない。そこでも結局、畑野先生がいつも言われるように「ポカ(ミス)をしない」ということがいちばん重要です。求めるところは高いと思いますが、今の高校バレーはそこまで追求しないと勝てないと思います。
――インターハイでは完成度、春高はそこに加えてスケールの大きさも重要だと思います。現時点でこのスケールで日本一を取ったことは意味があると思います
でも結局、現状に満足しないで成長しないといけません。逆にここから成長できなかったら勝てないと思うので。やっぱり個人技を上げることがいちばん大事。まだまだ個のレベルを上げないと春高では100%勝てない、それは間違いないです。
4年ぶりにインターハイを制したが、 目指す場所はまだ先にある
宮迫竜司
みやさこ・りゅうじ/1991年8月26日生まれ/鎮西高→福岡大/現役時代のポジションはライトで主将
福岡大を卒業し、2013年に母校である鎮西高のコーチに就任。今回のインターハイの優勝で、指導者として5度目の日本一を経験した
取材・写真/田中風太(編集部)
9月12日(金)発売の月刊バレーボール10月号では、選手たちの対談などを通して、鎮西高のインターハイ優勝までの道を振り返ります
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